北海道大学大学院教授、金成玟氏の著書『K-POP 新感覚のメディア』(岩波新書、2018年)によると、2010年代に日韓関係が極度に悪化していた時期、BIGBANGは華やかなドームツアーを続々と成功させ、日本でのコンサート動員数ランキングでは1位を獲得していた。政治的に悪化した日韓関係とは対照的だった。
この時期、在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチを叫ぶ排外的なデモが社会問題になっていた。筆者はヘイトスピーチが蔓延する状況に苦しみ、頭に十円ハゲができたこともある。非常に辛かった時期である。
2015年頃、ヘイトスピーチが激しく、筆者が最も苦しかった時期に、BIGBANGのコンサートの録音盤をたまたま聞いたことがある。熱狂的なファンが声を一つにしてメンバーたちと代表曲「FANTASTIC BABY」を歌う音源であった。それを初めて聞いたとき、涙が溢れてきてしまった。
「なんだ、いくら日韓関係が悪いと言っても、BIGBANGは日本でものすごい人気なんじゃないか」
そう考えた時、重たかった心がふっと軽くなったのを覚えている。もちろんヘイトスピーチを行う人々は当時も(今でも)存在したし、BIGBANGのファンは日本では一部かもしれない。音楽がすべてを超越するとは思っていない。
でも、BIGBANGの音楽が力をくれたのは事実だ。筆者が2018年に韓国に短期留学したとき、日本人と韓国人の学生みんなでBIGBANGの「FANTASTIC BABY」を歌ったことがあった。日本人は日本語で歌い、韓国人は韓国語で歌った。幸福な空間であった。K-POPは両国の若者たちを確かに繋いでいた。そのことを実感できたとき、筆者が抱えていた辛さは和らいだのである。
金成玟氏は本の中で「音楽(を含む文化)と人びとの力が、反目や嫌悪のこれ以上の蔓延をみえないところから抑制しているのではないか」と述べている。同感だ。筆者はたしかに、BIGBANGの音楽に人生を救ってもらったのだ。
そんなBIGBANGのステージを見ることは、筆者にとって特別な出来事だった。「FANTASTIC BABY」を聞き、BIGBANGがあの時くれた勇気と力が体の中に蘇り、ふつふつと沸き上がってくるようだった。
会場はものすごい歓声だった。BIGBANGの黄色いペンライトがたくさん見えた。1万人くらいはいたと思う。泣いている人も多かった。
音楽は人の心を震わせる力がある。ヘイトスピーチがひどくて個人的につらい時期もあったけど、負けずに生きてきてよかった。K-POPのおかげで、日本と韓国の友人をたくさん作ることができた。K-POPが好きでよかった。応援し続けてきてよかった──。青臭いかもしれないが、そんなことを実感したBIGBANGの復活劇だった。