イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが停戦合意し、原油価格に下押し圧力がかかっている。長期の市況低迷により産油国の環境規制への姿勢は急速に後退している。イスラエル寄りのトランプ次期政権にアラブの産油国は警戒しているが、環境規制に消極的という面では望ましい状況をもたらす可能性もある。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=68ドルから71ドルの間で推移している。週初めは2週間ぶりの高値となったが、その後、地政学リスクへの懸念が後退したことで先週とほぼ同じレンジ圏内で推移している。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
11月25日付ロイターは「トランプ次期政権移行チームは早ければ就任初日に石油掘削に関する促進策を発表する」と報じた。米沿岸沖や連邦政府所有地での石油掘削の拡大などが主な柱だ。だが、肝心の業界の反応は冷ややかだ。
米石油大手エクソンモービルの開発部門責任者は26日「トランプ次期政権下で国内の原油生産量が大幅に増加する公算が小さい」との見方を示した。国内企業の大半が事業の採算性を重視しているというのがその理由だ。
次期政権はカナダ産原油の米国への輸送を拡大するため、キーストーン・パイプラインを早期に承認するとしているが、これに相反する動きも示している。
トランプ氏は26日「カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課す」と発表したが、両国から輸入される原油を例外としなかった。
米国の原油輸入量(日量600~700万バレル)に占めるカナダの割合は6割超(約400万バレル)、メキシコからの輸入量は約50万バレル(1割強)だ。
だが、7割超の輸入産原油に25%の関税が課されれば米国のガソリン価格が高騰することは火を見るより明らかだ。「エネルギー価格の抑制を公約にする次期政権は最終的に例外措置を講じる可能性が高い」と筆者は考えている。