伝統的工芸品・南部鉄器の「AI師匠」も誕生
次に、質的な人手不足に対応する中小製造業者2社を紹介したい。
岩手県盛岡市にあるタヤマスタジオ株式会社は、伝統的工芸品である南部鉄器を製造・販売している。
2013年創業と業界では比較的若い会社である。6人の職人がいるが、そのうち3人は20代の若手である。このため、人材育成が課題となっていた。
若手職人の指導を担うベテラン職人の負担が重く、技術を承継していくための人材が足りないという質的な人手不足に対応するため、職人の思考を再現する人工知能(AI)を導入している。
具体的には、代表取締役社長である田山貴紘さんの父で、伝統工芸士である田山和康さんに、南部鉄器をつくるうえで重視していることを約10時間かけてヒアリングし、その音声データをAIに学習させることで、和康さんの思考を再現した「AI師匠」ともいうべきシステムをつくりあげた。
南部鉄器づくりの工程はすべて手作業のため、指導の起点はベテランの感覚になるが、感覚を言葉で伝えた後のアドバイスをAIが担ってくれる。
例えば、鋳型をつくる粘土をベテランに確認してもらったところ「弱い」と指摘されたとする。「弱いとは何か」をAIに尋ねると、解決策や改善策を提案してくれる。ベテランが発した一言の裏側にある無数のノウハウをAIから学ぶことができる。
この結果、入社間もない若手でも半年で60個つくれるようになっている。タヤマスタジオはAIを活用することで質的な人手不足を乗り越えている。
発注通りの色に染まっているかを見極めるAI
岐阜県大垣市にある株式会社艶金はアパレルメーカーや洋服の生地を扱うテキスタイルメーカーから染色整理加工を請け負っている。染色加工は、原反といわれる加工前の生地を取引先の指定する色見本のとおりに染める仕事である。
指定の色に染まっているかを検査する工程では、担当者が目視で合否判定を行う。同じ黒でも取引先によって微妙に違うため、その違いを判断するには長年の経験がいる。そのため、長年同じ人が担当することが多く、ノウハウが属人化していた。
そこで、2020年に検査工程の質的な人手不足に対応するため、AIを活用した色味検査システムを導入した。
染めた生地をカメラで撮影し、そのデータをAIが解析、色の3要素である色相、彩度、明度を数値化した結果を画面上に表示する仕組みである。色見本との差異があるのかどうかを一瞬で判定できる。
従来は、判断に迷い1回の検査に5〜10分かかることもあったが、AIが1次判定をしてくれることで、検査時間の短縮につながっている。取引先から染め直しを求められることも減少傾向にある。
何より、熟練者が必要と考えられていた色味検査の技能承継にめどが立った。質的な人手不足を省力化投資で解決した好例といえる。
今回紹介した4社のように、近年はロボットやAIなど最先端技術を駆使した省力化投資で人手不足を解決する企業が登場している。次回は、省力化投資で成果をあげるポイントについて考えたい。
>>「AIが解消するニッポンの人手不足、こんな技術を誰が予測できたか?職人のワザを忠実に伝授、微妙な色味も見極める」へ続く(2024年11月23日公開予定)