電動化、内燃機関の効率向上、自動運転…日産の技術力は決して低くない

 日産が今やるべきはクルマ作りとユーザーの好みのズレ、自社製品の良さをユーザーに伝えるコミュニケーション不足、戦略の妥当性、日産というブランドへの信頼性など、自動車メーカーとしての実力を形成する要素全てについて批判的精神をもって見直すことだろう。これは日産ならずとも自動車メーカーにとっては相当につらい作業なのだが、現実を直視する勇気を持たなければ事態の改善は難しい。

 先例はある。トヨタ自動車は電動SUV「bZ4X」を皮切りに高級車「クラウンスポーツ」をBEV専用プラットフォームで作る計画を公表するなどBEVマーケットに攻勢をかけると大々的に宣言したが、その後計画を引っ込めて2026年以降に先送りした。

 ライバルメーカーの動向を見て、そのプランを強行しても敗北を喫すだけだという現実を認めた格好である。これは長い目で見て勝ちを拾う一番の早道なのだが、言うはやすし行うは難し。見立てを誤ったセクターや人材に対して責任を問わないという、失敗を許容する姿勢を持てなければできないことなのだ。

 だが、戦略を的確に修正できたとしても、自動車メーカーとしてのポテンシャルが低ければ復活は難しい。日産にその力があるかどうかが問われるのだが、少なくとも技術面については最初から負けが決まっているというほど日産の実力は低くない。そこは救いだ。

 自動車メーカーのサステナビリティにとって重要な技術分野は、ハイブリッドを含む電動化、内燃機関のさらなる効率向上、自動運転、コネクティビティ等だが、先行きが不透明なのはコネクティビティくらいでその他は業界の中で主導的な立場でいられる最低ラインはクリアしている。

 世界展開が遅れているハイブリッドだが、日産は「e-POWER」というエンジンを発電のみに用いるシリーズハイブリッド方式のシステムを量産している。

 このシリーズハイブリッドはエンジンパワーを直接動力に使った方が効率が良い時であってもパワーの全てを発電に使わなければならないため、高速走行時にはエネルギー消費が増えるのが弱点と言われている。実際、e-POWERが出てきた頃は実際のテストドライブでもその傾向がはっきりと出ていた。

 ところがである。筆者は偶然、中間決算発表の直前に第2世代e-POWER車「セレナe-POWER」をロードテストしていたのだが、低速走行から高速域までの全域で効率が旧タイプ比で大幅に改善されているのに驚いた。

日産「セレナe-POWER」日産「セレナe-POWER」(筆者撮影)

 約400kmの燃費計測区間のオーバーオール燃費は21.6km/リットルと、自重1.8トンのミニバンとしては十分以上に優秀な水準だったが、旧型のように高速域が苦手であったらこれよりずっと低い数値になっただろう。

 燃費改善の立役者は恐らく「HR14DDe」という型式の、日産初の発電専用1.4リットルエンジン。テストドライブ中、負荷が高まった時にはぶん回ることもしばしばだったが、それで燃費が落ちなかったのは高負荷運転時の効率が旧型の1.2リットルエンジンに比べて大幅に向上しているためと推察された。

 高速走行に弱いという過去のe-POWERの特性は実はシリーズハイブリッドのせいではなく、理想的な運転状態から外れると急激に効率が低下する旧式エンジンが主因だったのだ。

 これは高効率エンジンを搭載しさえすれば日本より高負荷運転の比率が高い欧米でもe-POWERで十分に勝負ができることを意味する。日産は現在、ハイブリッド用エンジンの熱効率を50%に引き上げる取り組みを行っている。現時点では46%台を達成した中国勢に後れを取っているが、ロードマップ的には再逆転は不可能ではないというポジションにいる。