手厚い技術投資の「成果」が見込める4~5年後までいかにしのぐか
BEVの最重要技術であるバッテリーについても今年、注目すべき発表を行っている。
次世代技術である全固体電池のマイナス電極に金属リチウムを使うというものだ。金属リチウムは電池技術者が「これを負極に使えれば電池性能を劇的に引き上げられる」と口を揃えるもので、安定した材料の研究開発競争が激化していた。
それの量産品への採用を宣言したのは自動車用高容量電池分野では日産がトップバッターだ。自動運転分野でも人工知能を含め開発は十分に最先端レベルを維持できている。
このように将来への種まきを豊かに行い、収穫のメドもつけている日産。ゴーン氏が実権を握っていた時代から研究開発への手厚い投資を絶やさなかったことが奏功した格好だが、問題はそこに至るまでのつなぎである。
今から4年ないし5年の間、何とかして売れる商品を出しながらしのいでいくことができなければ、成果を世に問う前にさらなる危機に見舞われてしまいかねない。
最大の課題であるアメリカ市場に今年、2つの新商品を投入した。小型SUV「キックス」とデザイン性重視の中型SUV「ムラーノ」である。これが販売面でどういう成果を上げられるかは、アメリカを立て直せるかどうかの試金石だ。もしこの2つを外すようだと、体面を気にせずデザインを含めたクルマ作りそのものを根本から見直す必要が出てくる。
日産はルノー、ホンダ、三菱自動車とアライアンスを組んでいるが、それは弱点を相互補完したり共同で部品購買を行うことでコストを削減したりといった効果はあっても、日産の商品力を自動的に高めてくれるわけではない。
本当に日産が復活を果たせるかどうか、企業体質改善を含めた今後の経営改革の取り組みには要注目である。
【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。