「自己満足のためにやっている」リベラルの運動には疑問

 こうしたバランス感覚は元来の性格であり、市長の経験を通じて磨かれたものだと稲村は自己分析する。「市民派」へのこだわり、自身の政治的志向についてはこう語った。

「私は市民派の市長として、『ちゃんと二元代表制をやる』ことにこだわりました。地方議会は首長と議会が車の両輪であり、与党・野党がない中でしっかり議論しようと。そういうスタイルは県政では難しいと思っていましたが、複数の議員や関係者から、こだわりを貫けばいい、むしろ今こそ必要だと言われ、挑戦することにしたんです」

「自分では中道左派やと思ってますが、県議の頃から右寄りの人には左と言われ、ほんまに左の人からは右やと言われてきました。

 思えば、阪神・淡路大震災の経験も大きい。左派系の社会運動家からたくさんのことを学ぶ一方で、違和感も感じたんです。それは、彼らがしばしば『結果が出なくても構わない』というような運動をすることです。

 自己満足のために社会運動やってるやんかと非常に強い抵抗を覚えた。そういうのは嫌だ、絶対形にしたいと、よくケンカしてました。考え方はリベラルですけど、リベラルの運動のあり方には問題意識を持っていたんです」

 原点となった震災から、来年の1月17日で30年。その日を稲村はどんな立場で迎えるのだろうか。