「ただ乗り」批判

 安全保障については、先述したようにウクライナに干渉することを控えるため、停戦の早期の実現を図ろうとする。そうなれば、ロシアに有利な形での停戦となる可能性が高い。危機感を持っているのはウクライナのゼレンスキー大統領である。アメリカの支援が止まれば、ウクライナは戦い続けることができない。

今年9月、ゼレンスキー大統領は訪米しトランプ氏と会談。大統領選でのトランプ勝利に備えて手を打ってはいたが(写真:ロイター/アフロ)
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 集団安全保障についても、モンロー主義的な立場から懐疑的である。その典型がNATOで、トランプ政権時代には、加盟国の欧州諸国に防衛費の増額を求めている。トランプは、今回の大統領選期間中も同様の主張を繰り返した。今年の2月、サウスカロライナ州で開かれた選挙集会で、トランプは「NATO各国は軍事費を十分に負担していない。彼らが払わないのであれば我々は防衛しない」と述べている。トランプは、NATOのためのアメリカの負担が重すぎるという認識である。

 これはいわゆる「ただ乗り(フリーライド)」論である。同盟国である日本に対しても同じ意見を持っていると考えられる。2024年度の日本の防衛費の対GDP比は1.6%であり、2027年度には2%とする予定であるが、トランプからみれば、まだ不十分であろう。日本に対しても、さらなる防衛負担を求めてくるであろう。

 ヨーロッパのNATO加盟国の2023年の国防費については、30カ国のうち19カ国がGDP比の2%という基準に達していない。ドイツ、ノルウェー、フランスなどである。これに対して、バルト3国、ルーマニア、ハンガリー、フィンランドは2.3~2.7%、ポーランドは3.9%である。

 アメリカがNATOから離脱するには、上院の3分の2の同意が必要である。そのルールは、昨年米議会で定められたものである。したがって、トランプがアメリカをNATOから脱退させるのは容易ではない。

 トランプの孤立主義は、ウクライナのみならず、欧州諸国に大きな危惧の念を拡大する。アメリカがウクライナへの支援を控えても、欧州諸国、EUは支援を継続する意向を示している。それは、ウクライナ戦争でロシアを勝利させると、ロシアはバルト三国をはじめ隣接する諸国を次の侵略の標的にするからである。

 副大統領となるJ.D.バンスによると、トランプはウクライナ領内に非武装地帯を設けるという。それは、ロシアが現在の占領地を維持することを意味する。ウクライナは中立化し、NATOへの加盟は拒否するという。