ドイツの苦悩
第二次世界大戦の敗戦国、西ドイツと日本は、戦後に目覚ましい経済発展を遂げて復興した。米ソ冷戦の終焉後、東西ドイツが統一し、フランスとともにEUの主軸国となった。
しかし、近年では日独両国の経済不振が目立っている。戦後の成功体験に固執したため、両国とも構造改革ができずに、中国などの新興国に追い越されるようになった。
ドイツは、冷戦後にロシアとの関係を緊密化し、安価なロシア産の天然ガスに依存してきた。しかし、それは、ロシアのウクライナ侵攻によって、もはや継続できなくなった。
また、製品を中国市場に輸出することを貿易戦略の柱としてきたが、米中対立によって、それも機能しなくなった。
ドイツ政府は、今年のGDP成長率をマイナス0.2%とする見通しを10月に公表した。昨年に続いて、G7の中で、唯一2年連続のマイナス成長である。
しかも、ドイツではインフレが起こっており、スタグフレーションの状況になっている。
ドイツの基幹産業である自動車業界では、フォルクスワーゲンが国内の3工場を閉鎖し、数万人の従業員を解雇する。
さらには、老朽化したインフラの改修にも多額の予算が必要である。しかし、財政規律重視の自由民主党(FDP)に属するリントナー財務大臣は、その支出に反対であり、非効率な補助金の削減などを主張している。ショルツ政権は、社会民主党(SPD)、緑の党、FDPの三党からなる連立政権である。
FDPとは対極的に、社会保障を重視し、大きな政府を求めるSPDのショルツ首相は、政策の相違が埋まらないとして、11月6日、リントナー財務大臣を解任した。そのため連立政権は崩壊し、ショルツ首相は来年3月末までに議会選挙を行う意向を示した。ショルツ政権の10月下旬の支持率は14%と低迷している。
ドイツはアメリカに次ぐウクライナ支援国であり、連立政権の崩壊は、ウクライナ支援にも影響を与えそうである。ドイツでは、排外主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を拡大しており、トランプ流の自国第一主義が拡大している。それは、フランスやその他の欧州諸国についても同様であり、ウクライナ支援には消極的である。ヨーロッパで極右勢力が拡大すれば、欧州の安全保障体制にもひび割れを生じさせかねない。
大統領選で再選されたトランプが、今後、ヨーロッパとどのような関係を築いていくのかを注目したい。米欧関係もまた、世界の平和と繁栄を左右する重要な要素だからである。