原油下落に有効な手を打てないOPECプラス

 1980年代、イラン・イラク戦争(1980~88年)が災いして原油供給が大きく減少したが、欧米経済の不調であったため、原油価格はさほど上がらなかった。中国の原油需要への懸念が高まる中、足元の状況も1980年代に似てきているのかもしれない。

 この事態に焦っているのがOPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)であるのは言うまでもない。

 ロイター通信は10月30日、「OPECプラスは12月から予定している有志国による自主減産の縮小(日量18万バレルの増産)を1カ月以上延期する可能性がある」と報じた。

 増産は当初10月から実施される予定だったが、原油価格下落の影響で12月に延期されていた。OPECプラスは12月1日に予定されている閣僚級会合を待たずに早ければ来週にもさらなる増産の延期を決定すると言われている。

 この報道を受け、原油価格は若干持ち直したが、原油価格の下落トレンドを止めるには力不足だと言わざるを得ない。価格を上昇させるためにはOPECプラスのさらなる減産が必要となる。

 しかし、サウジアラビアがさらなる減産の重荷に耐えられるかどうか疑問だ。サウジアラビアの8月の原油輸出収入は前年比16%減の174億ドル、2021年6月以来の低水準だ。減産幅を拡大しても原油価格が上がらなければ、サウジアラビアの財政はますます「火の車」になってしまうだろう。

 原油価格の下落は消費国日本にとっては望ましい展開だが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」。湾岸産油国で政情不安が起きないことを祈るばかりだ。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。