「地政学プレミアム」が剥落
原油市場で意識されていたイスラエルのイランに対する報復攻撃が10月26日に行われたが、ミサイル製造施設などへの空爆に限定され、石油関連施設や核施設が除外されたことで供給不安が大幅に後退した。
「地政学プレミアム」が剥落した格好となり、原油価格は6%減と大幅安となった。下落率は2021年7月12日(7.9%)以来の大きさだった。
だが、「火の粉」が完全に消えたわけではない。
米CNNは10月30日「イランはイスラエルの軍事目標に対して『決定的で痛烈な』対応を行う」と報じた。
イエメンの親イラン武装組織フーシ派も妨害活動を続けている。フーシ派は10月28日「紅海とアラビア海で3隻の船舶を標的にした」と発表した(被害状況は不明)。
イランに加え、ロシアもフーシ派を支援しているようだ。米ウォール・ストリート・ジャーナルは10月24日「ロシアは衛星データを提供し、フーシ派による商船攻撃を手助けしている」と報じた。
中東情勢は依然として予断を許さないが、筆者は「景気低迷による需要鈍化のせいで地政学リスクが原油価格に与える影響はかなり限定的になっているのではないか」と考えるようになっている。
前述の世界銀行は、中東情勢が一段と悪化し、この地域からの原油輸出が著しく減少した場合の分析も行っている。それによれば、原油供給が日量200万バレル落ち込むと原油価格は一時、1バレル=90ドルを超えるが、他の産油国が増産するため、来年の原油価格(平均)は同73ドルだという。
日量200万バレルという規模はイランの原油輸出量(日量170万バレル)に相当する。今年4月にイランがイスラエルに攻撃した際、原油価格は90ドル超えとなったが、今後、イラン産原油の供給に大幅な支障が出たとしても、原油価格は同水準にとどまるというわけだ。
需要の低迷が地政学リスクの影響力を大きく削いだ前例がある。