世界の大手石油企業が大幅な減益に見舞われている。深刻な需要低迷による原油価格の下落に対し、OPECプラスも有効な手を打てないでいる。中東情勢は緊迫した状態が続いているものの、原油市場では「地政学プレミアム」がはげ落ちつつあり、価格反転が見込みにくい状況にある。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=67ドルから69ドルのレンジ圏で推移している。中東情勢の悪化は続いているものの、原油供給途絶の懸念が大きく後退したことで原油価格は先週に比べて3ドルほど下落している。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
原油需要の低迷が大手石油企業の決算に暗い影を投げかけている。
中国国有石油大手の中国石油化工集団(シノペック)が10月28日に発表した今年第3四半期決算は、純利益が前年同期比52%減の85億4000万元(約12億ドル)だった。特に不調だったのが化学部門だった。部門別純損失は49億元の赤字を計上し、全体の足を引っ張った。
インド石油精製最大手インディアン・オイルが28日に発表した第3四半期決算でも、純利益が前年比99%減の2140万ドルだった。需給状況の悪化が響いた。
英BPも同様だった。10月29日に発表した今年第3四半期決算で「純利益は96%減の2億600万ドルだった」ことを明らかにした。世界的な景気減速により石油製品の採算が悪化した。
米国のガソリン価格も需要の減少から「3年ぶりに1ガロン3ドル割れになる」との予測が出ている*1。
*1:Average U.S. Gasoline Price Set to Drop Below $3 for the First Time Since 2021(10月28日付OILPRICE)
このような状況を踏まえ、世界銀行は10月28日に公表した「商品市場見通し」の中で「原油相場には相当な下落リスクがある」との見方を示した。
需給面の悪材料に抗う形で原油価格を下支えしていた地政学リスクも空振りに終わってしまった感が強い。