石油を「掘って掘って掘りまくれ」と発言していたトランプ氏が米大統領に返り咲くことで、原油相場に下押し圧力が強まりそうだ。イランはイスラエルへの報復攻撃でトランプ氏を刺激しないよう慎重になる可能性もあり、中東をめぐる地政学リスクも原油価格を下支えする力がさらに弱まるかもしれない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=70ドルから73ドルのレンジ圏で推移している。「需給懸念が後退した」との観測から、原油価格は先週に比べて3ドルほど上昇している。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
11月の米大統領選でのトランプ氏の勝利に原油市場はあまり反応しなかったが、原油相場には徐々に下押し圧力がかかるとの見方が一般的だ。トランプ氏が選挙期間中「国内の石油産業を優遇する」との主張を繰り返してきたからだ。
米金融大手シティは11月6日、「来年の原油価格は1バレル=60ドルになる」との予測を示している。
米国ではハリケーンなどの襲来で原油生産が一時、落ち込むことがあるが、生産能力は日量1350万バレルと過去最高の水準にある。トランプ氏の返り咲きによって増産攻勢がかかる可能性があり、OPECプラス(石油輸出国機構とロシアなどの大産油国で構成)にとって米国はますます厄介な存在になるのは間違いないだろう。
OPECプラスは11月3日、12月から予定されていた有志国による自主減産(日量220万バレル)の縮小を1カ月延期することで合意した。12月から減産規模を日量18万バレル縮小する予定だったが、中国の需要低迷や世界的な供給拡大により原油価格に下押し圧力がかかっているというのがその理由だ。
自主減産縮小の延長は10月に続き今回が2度目だ。OPECプラスは12月1日に閣僚級会合を開き、来年の方針を決定する。
OPECプラスの決定後、原油価格は3%ほど上昇したが、その後、下落に転じた。
ブルームバーグによれば、OPECの10月の原油生産量は前月比37万バレル増の日量2990万バレルだった。中央銀行の支配権を巡る東西両勢力が対立したことでリビアの原油生産量が前月から日量50万バレル増加したことが主な要因だ。一方、イラクの原油生産量は前月比9万バレル減の日量413万バレルとなったが、依然として日量400万バレルの生産枠を上回っている。
OPECプラスの減産を下支えしているサウジアラビアの財政は悪化する一方だ。