「赤字」か否か、それは公共交通のいち側面に過ぎない

 鉄道やバスは、それぞれ鉄道会社やバス会社が運行する。専門的には「交通事業者」あるいは単に「事業者」と呼ぶ。

 事業者は、車両などの設備を購入し、運転士など人員を雇い、列車やバスを走らせる。そこで得た収入から、設備投資や運行に必要な費用をまかなったり、乗務員らの給料を支払ったりする。

 お金を稼いで、経費を支払い、その差を利益として得る。これは一般的な形の商売、まさに「事業」(ビジネス)である。これが公共交通の第一の側面である。

 しかし、これだけで完結するほど公共交通は単純ではない。「交通弱者」という言葉があるが、世の中には自動車を持てない人・持たない人、また年齢や障がいなどの理由で自動車を運転できない人々が一定数いる。

 さらに、飲酒後や薬の服用後、あるいは病気や怪我の時のように、一時的に自動車を使えない・使ってはいけないケースも様々ある。

 恒久的であれ一時的であれ、自動車という移動手段の選択肢を持たない人々に、徒歩や自転車圏内を超えた長い距離を移動できる交通手段を提供するという役割が、公共交通にはある。

 公共交通機関を使って買い物をしたり、病院に行ったり、遊びに出かけたり、親せきや友人に会うことができる。もしも公共交通がなければ、家族などの送迎に頼ることになるが、これは家族にとっては大きな負担である。

 自動車を持たない・使えない人々への社会のセーフティーネットとしての機能。また、間接的に、私的にセーフティーネットを構築している送迎する家族の負担を軽減する機能。これが公共交通の第二の側面である。「公共交通の社会的機能」といってもよい。

ウィーン郊外の鉄道駅コンコース。シースルーの大型エレベータを設置して、誰もが自律的に鉄道を利用できることで、第二の社会的機能に資するよう設計されている。

 なお、タクシーという選択肢もないことはないが、毎回使えるほどに廉価なものでもない。

 また、特に地方部では顕著だが、乗りたいときにいつもあるかというと、そうとも限らない。近年何かと話題に上るライドシェアも同様である。

 タクシーやライドシェアは、単独では上に書いた問題の解決策にならず、それだけでは社会のセーフティーネットとしては機能しない。