労働市場はマラソン型からバケツリレー型に

 副業など様々な働き方の登場により、労働市場は「マラソン型からバケツリレー型」に転換していくと考えられる。従来は、フルタイムの労働者がそれぞれバケツをもって所定の位置まで一人で走るのが「マラソン型」の労働市場だとすれば、副業やスキマバイトなど様々な働き方の労働者がバケツを送っていくのが「バケツリレー型」だ。こうしたバケツリレー型の労働市場を実現するためには、年収の壁や副業などについて政策的な手当が必要になってくる。

 また、現場に目を移せば、フルタイム、パートタイム、副業など、就業形態が一層多様になるとともに、マネジメントの難易度は上がっていく。それは、多様な働き方によって、単純に就業者一人ひとりの労働時間に大きなバラツキが生じるからだけではない。労働時間の長短によって生じる業務の経験値やスキルの差にも応じて、タスクを差配する能力も一層問われるようになってくるからだ。

「人手」から「時間」へと転換することで、見えてくる労働市場の景色は鮮明に、そして備えるべき対策はさらに明確になったのではないだろうか。多くの労働者がフルタイムかつ多能工のマラソン型の時代には求められなかったマネジメントスキルが、これからのバケツリレー型の時代には必須となってくるはずだ。

今井 昭仁(いまい・あきひと) パーソル総合研究所 研究員
London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。