晩年をいかに過ごすかで人の評価は一変する。「晩節を汚したくない」と自戒しておきながらも、いつのまにか「老害」と呼ばれている人も少なくない。長寿命化の現代においては引き際がますます難しくなっている。経営者や政治家などの偉人たちはどのようにして、何を考え、身を引いたのか。第6回はアメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンの引き際と晩年を見てみたい。
初代大統領は完全無欠のヒーロー
米国大統領選挙で78歳のドナルド・トランプ前大統領が勝利した。史上最高齢での大統領就任になる。現大統領のジョー・バイデン氏の就任時同様に「高齢過ぎる」との指摘も少なくないが、今年の5月にトランプ氏は返り咲きどころか、3選を意識しているとも受け取れる発言をして物議を醸した。
米国の長い歴史の中でも3選以上務めた大統領は1933-45年(4期)のフランクリン・ルーズベルトただひとりだ。当時は大恐慌、第二次世界大戦という特殊な環境要因があり、異例の任期となったが、1951年に「やはり長すぎる」と憲法(連邦憲法修正第22条)で3選が禁止された。
それまでは法制化されていなかったものの2期8年が慣例として続いていた。これは初代大統領のジョージ・ワシントンが3選を固辞したことから始まっている。憲法での3選禁止規定は初代大統領ワシントン以来の3選不出馬の慣例を成文化したものといわれている。ちなみに、ワシントンは2選目時には対立候補もなく、再選されている。このときにワシントンは1分程度スピーチしたが、これが米国大統領史上、最も短い就任演説といわれている。
ワシントンはいわずと知れた米国の英雄だ。英雄過ぎていろいろな伝説を生み出している。
「対岸が見えないような川の向こう岸に石を軽々投げた」「ネイティブ・アメリカンがいくら発砲したところで全く命中しない」「ワシントンのすぐ近くが砲撃されて人馬が吹き飛んだのになぜかワシントンだけは無傷だった」。もはや、人間ではない。
完全無欠のヒーローに仕立て上げられているので、性格も完璧だ。それを物語っているのが「桜の木」のエピソードだ。ワシントンが6歳のころ、父親が大事にしていた木を切ってしまったというアレだ。