母親が世話した新たな愛人

 ローズベルトの母サラ・デラノが、体調不良だった大統領(当時57歳)の無聊(ぶりょう)を慰めるために、遠い従妹であるマーガレット・デイジー・サックリー(48歳)にローズベルトのもとを訪ねるよう依頼したことで2人の交際が始まった。

 デイジーは、「ローズベルトの心と身体に、安らぎと癒しをもたらす唯一の人」と母サラから賞された女性である。

 だが、時を経ずしてデイジーは、ローズベルトが秘書ルハンドと不倫していることを知り呆然となる。

 秘書ルハンドは鬱ぎ込むデイジーに、大統領を取り巻く女性たちの存在を伝えることにした。

「ローズベルト大統領の愛人関係にある女性は、大統領の妻エレーナの秘書だったルーシー・マーサー・ラザファードや、『ニューヨーク・ポスト』のオーナー兼発行者ドロシー・シフなど複数の女性らがいます」

「多くの女性が他の女性たちと大統領との関係を共有しています。大統領との交接できる関係の女性は複数いるため、ローズベルト大統領はデイジーだけのものではないのです」

 こう、彼女に愛人の一人としての役割を受け入れさせることに納得させたのだった。

 妻エレーナは夫ローズベルトの愛人を横目に、賢夫人を装い続けた。

 夫の浮気を容認していたエレーナは、『ミネアポリス・トリビューン』紙とAP通信の女性記者ロレーナ・ヒコックと長年にわたり同性愛の関係にあった。

 それだけにとどまらず、彼女は大統領の側近で商務長官を務めたハリー・ロイド・ホプキンスと肉体関係をもつと、たびたびホプキンスとのセックスに興じている。

 さらには、ニューヨーク州警察官でエレーナのボディガード・アール・ミラーとも彼女は不倫関係にあった。

 警護官ミラーはエレーナに乗馬やテニス、水泳のコーチをしたり、ターゲットを狙ってピストルを撃つ方法を教えたりするなど、公私ともに彼女との交流を深めていた。

 エレーナとミラーの定期的な性愛行為は彼女が亡くなるまで続くことになる。

 エレーナの息子でローズベルトの長男ジェームズは、2人の関係を「父との結婚を除けば、母エレーナと警護官ミラー氏との関係は、母の生涯において、唯一の本当のロマンスだったと思います」と述べている。

 妻と自らの側近や妻の警護官とのセックスを黙認していたローズベルト大統領は、「女房と財布は努めて隠しておけ。あまりたびたび人に見せていると、ある日借りられる恐れがある」との言葉を残している。

 ローズベルトはルーシーが結婚するのを機に彼女と一旦別れたが、彼が死ぬ1年前に縒りを戻している。

 そして、ジョージア州ウォーム・スプリングスで保養していた時、ルーシーの友人である女性画家がローズベルトの肖像を彼の別荘で描いている最中、亡くなった。

 死因は脳卒中で大統領第4期目に入って3か月目であった。享年63。