愛人のもとで倒れた大統領 

 大統領選挙4期目に立候補した63歳のローズベルトに、医師団の一人の心臓医学専門家ブリューン少佐は、彼の血圧が260/160に達するなど異常に高いことに警告していた。

 だが当時、高血圧自体は治療の対象とされなかった。

 ローズベルトは、4選を果たすとクリミヤ半島で英国のウィンストン・チャーチル首相、ソ連・スターリン書記長とのヤルタ会談に臨み帰国した時には、大統領の血圧はさらに上昇し、300/190に達していた。

 温泉保養のためにジョージア州ウォーム・スプリングスに滞在中している最中、別荘の居間でローズベルトは突然倒れた。高血圧発作を起こしたのだ。

 エレーナ夫人はワシントンから急遽、別荘に駆けつけた。

 一方でローズベルト大統領が死亡した直後、密かに別荘から抜け出した女性がいた。

 ローズベルトの最後に立ち会った女性の名はルーシー・マーサー・ラザファード。2人は不倫関係にあった。

 当初ルーシーはドレスショップで働いていたが、ローズベルトの妻エレーナに気に入られて、彼女の秘書として雇われることになる。

 ある日、エレーナは自分の秘書ルーシーと夫ローズベルトが交換したラブレターを見つけ、夫と自分の秘書に肉体関係があることを知り、彼女の胸に衝撃が走った。

 本来ならここで結婚生活が崩壊寸前になるのだが、当時、海軍次官時代の夫ローズベルトは家庭を壊すのではなく、妻エレーナと愛人ルーシーとの関係を、うまく維持しながら結婚生活を続けるために、妻にある提案をした。

 彼は複数の異性と性的関係を同時に結ぶポリアモリーの意義を、分かりやすく丁寧に妻エレーナに説いたのである。

「真剣交際の男女のカップル、もしくは結婚した夫婦の間では他の異性に対して、恋愛感情の伴う行動は制限されるものである」

「もし、他の異性と恋愛を楽しんで性愛行為に走るとしたら、それは倫理に反することになる」

「だが、現実として年月が経てば、恋い焦がれて結婚した相手への情愛は次第に薄れ夜の営みはマンネリ化する」

「そうなれば他の異性に惹かれることもあるだろう」

「だが、伴侶の浮気を認め合うことで、互いにそれぞれが自由に愛人を作り、互いに他の性的なパートナーを認め合えば、互いに家庭外での性欲の発散が可能になるのではないか」

「そうなれば、夫婦を縛っていた倫理という拘束から心は解き放たれ、互いに良好な夫婦関係が維持できるようになるはずだ」

 妻エレーナは、夫の説得に応じ、互いの不倫を容認することに同意する。ローズベルトには妻エレーナの秘書ルーシー以外にも多くの愛人がいた。

 大統領の私設秘書を21年間務めた事実上の首席補佐官マルグリット・アリス・ミッシー・ルハンドも、妻エレーナ公認の愛人で、ルハンドは妻のエレーナからも尊敬される女性だった。

 大統領秘書官ルハンドは、ホワイトハウスにある大統領の寝室を自由に出入りするほどで、大統領自身でさえ彼女の行動を制御するのが難しかったと、伝記作家キャサリン・スミスは著書、『ゲートキーパー』で明かしている。