早貴被告と大下さんが、一緒に何かをたくらむほど仲が良かったということはない。大下さんは、野崎氏のことを敬わない早貴被告の態度に不満を持っていた。また、18年4月から田辺にやってきた早貴被告は、それから市内の自動車教習所に通いはじめるのだが、その送り迎えを担当していたのは大下さんだった。そこで大下さんは、早貴被告から心無い言葉をぶつけられたという。

「紀州のドン・ファン」野崎幸助氏(故人)と元妻の須藤早貴被告。早貴被告が手にしているのはドン・ファン愛用のピンクの携帯電話(撮影:吉田 隆)
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 前出の吉田氏が言う。

「大下さんは他に買い物があり、教習所に迎えに行くのが10分ほど遅れてしまったことがあったそうです。そのとき『何やっているのよ、ったく使えないんだから』と早貴被告から凄い形相で文句を言われたそうです。あとで大下さんは『自分の娘よりも年下なのに……。娘にも生まれてこのかたあんな文句、言われたこともないのよ』とショックを受けた様子を語っていました。

 また大下さんによれば、早貴被告は掃除・洗濯などの家事は一切せず、大下さんを手伝うそぶりもなかったようです。『(早貴被告の)下着類を洗濯することも無かったのよ。というのもあの娘は一度履いたパンティーはそのままゴミ袋に捨てるから。一体どんな暮らしをしてきたんだろう』とも話していました」

人前に姿を現さなくなったお手伝いさん

 このように野崎氏、早貴被告のことをよく知り、事件発生当日も現場にいわあせた大下さんは、マスコミがどうしても接触したい相手だった。事件発生直後は彼女に接触したメディアもいくつかあったが、その後、大下さんの行方はつかめなくなる。

 前出・吉田氏は、事件の翌日から野崎氏宅で寝泊まりし、早貴被告や大下さんから何度も当時の状況を聞いている。

 吉田氏に対して大下さんはこう語っていたという。

「私が自宅に帰ってきたのは8時ごろ。早貴ちゃんはお風呂上がりだったようで髪が濡れていて、髪を乾かしながらリビングでテレビを見ていました。見ていたのは『モニタリング』(TBS系)の特番でした。いつもはタブレットでゲームをしているのに、この日はリビングでテレビを見ているなんて珍しいなと思いました。8時半ごろに『ガタン』と上の階から2回物音がしたので『早貴ちゃん、社長が呼んでいるんじゃないの』と言いましたが、彼女は2階には行きませんでした。結局10時すぎに早貴ちゃんは2階に上がり遺体を発見、慌ててリビングにいる私を呼び、一緒に2階に上がったんです」

 検察の冒頭陳述によれば早貴被告は犯行時間帯、すなわち大下さんが帰宅する前に少なくとも8回、2階に上がったとスマホの解析で断定をしている。

 覚醒剤を摂取したドン・ファンが苦しんでいるのを見るために上がったのか、それとも死んだのを確認するために上がったのか――その時の野崎氏の心情を思うと胸が苦しくなる。

 では、なぜ大下さんはその後、メディアの前に姿を現さなくなったのか。おそらく、当時の状況を正確に説明することが難しい健康状態になっていたのではないだろうか。

 吉田氏によれば、大下さんは野崎氏の生前から物忘れがひどくなり、買い物に行っても頼まれていた食材を買い忘れることがたびたびあったという。

 そんな大下さんを野崎氏は、「大下さん、認知(症)が入っているんやないか」と茶化すこともたびたびだった。また事件後に警察での事情聴取を受けたときも、供述がコロコロと変わるところがあり、記憶があやふやと思われていたようだ。

 そのため公判でも、検察側は大下さんの証人出廷を諦め、彼女の供述調書が読み上げることにしたのだろう。法廷で真実が明らかになるときまでに、大下さんが回復していることを祈るばかりである。