18年5月24日の22時過ぎ、和歌山県田辺市の資産家野崎幸助氏(享年77)の遺体が自宅2階の寝室で発見された。死因は覚醒剤の多量摂取であった。野崎氏は何者かによって覚醒剤を飲まされた疑いが濃厚だった。

 そして事件からおよそ3年後の21年4月、警察が殺人の疑いで逮捕したのは、妻の早貴被告だった。その早貴被告の裁判が、今年の9月から裁判員裁判として始まった。判決は12月12日に下りる予定だ。

 野崎氏は自伝『紀州のドン・ファン』(講談社+α文庫)を16年12月に上梓しているが、同書の中で、過去に美女4000人に30億円を使ったと豪語し、「一億円なんて私にとって紙屑みたいなもの」との“迷言”でも知られていた。

 財を成したのは貸金業であったが、その後は和歌山県内や三重県を販売エリアとする酒類販売業「アプリコ」を経営していた。2度の離婚歴があるが、子どもはおらず、愛犬イブと自宅で暮らしていた。資産は30億円とも言われる。

六本木でドン・ファンと知り合ったお手伝いさん

 野崎氏は一種の「結婚したい病」であったようだ。好みのタイプは、20代の背が高く、メリハリのあるボディラインの女性ということで、そうした女性と知り合いアプローチをかけてみても、途中までは上手くいくが最後の入籍の段階になると尻込みされ逃げられてしまうことが続いた。そうした中、2017年の12月に出会ったのが、当時22歳の早貴被告である。2人が入籍したのは18年2月8日、実に年の差55歳の夫婦の誕生だった。

 ただ、東京在住だった早貴被告は、入籍当初は「仕事の整理があるから」と田辺の野崎氏宅に寄り付かず、たまにやってくるだけだった。これに業を煮やした野崎氏が、離婚をチラつかせたことで、ついに早貴被告も田辺市の自宅で同居するようになる。

 そして事件当時。田辺市の自宅で暮らしていたのは野崎氏と早貴被告、そして月に10日ほど東京から手伝い役で来ている70代に近い大下さん(仮名)の3人だった。

 今回のレポートの主役がこの大下さんだ。大下さんは東京・六本木で水商売を営んでいたが、その時に「同郷」という縁で野崎氏と仲良くなったという。正確にいえば、大下さんは田辺市と合併する前の中辺路町(なかへじちょう)の出身。野崎氏は田辺市の中心部で生まれ育っている。

宴会の席で自慢の歌声を披露する大下さん(撮影:吉田 隆)*写真は一部加工してあります
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