ACTが何としてでもセブン&アイを手中に収めたいワケ

 スーパー部門が連結対象からはずれ、さらに社名がセブン-イレブン・コーポレーションとなることで、どこから見ても、同社はコンビニ専業会社となり、世界のコンビニ事業を統括していく。ただしだからと言って、ACTが買収への意欲を失う保証はどこにもない。むしろ、今まで以上に買収の可能性が高まったともいえる。

 なぜなら、10月10日の改革案に市場はそれほど反応しなかったためだ。

 この日、取引時間内にセブン&アイの今期減益が明らかになったことで株価は大きく下げた。その後、同社は改革案を発表。翌11日、株価は反発したものの、この日の高値は前日高値に届かなかった。そしてこの日の終値ベースの時価総額は、5兆9700億円。ACTの買収提案額は、これより2割高い。特別委、そして株主がこの価格差をどう評価するかは、現時点では何とも言えない。

セブン&アイHDの株価セブン&アイ・ホールディングスの株価(グラフ:共同通信社)

 ACTがセブン&アイ買収に執念を燃やすのは、コンビニ事業の中でも北米のコンビニを手中にしたいからだと言われている。

 ACTの米国シェアは2位の3.8%。1位は米セブンイレブンの8.5%。セブン&アイの買収に成功すれば、米国で10%以上のシェアを手に入れることができるだけでなく、セブン流のきめ細かいコンビニノウハウも入手できる。

 米セブンイレブンは米国に1万3000店あるが、そのうち4000店が前述したスピードウェイの店舗だ。そしてスピードウェイの買収を決断したのが井阪氏だった。この買収によりセブン&アイの業績は大きく伸び、2023年2月期には、日本小売業初の売上高10兆円超えを達成した。

 つまりスピードウェイ買収は、井阪氏の社長8年間で最大の功績と言うことができる。そしてスピードウェイがあるからこそ、ACTはセブン&アイを何としてでも手に入れたい。

 井阪氏の勲章が井阪氏を苦しめる──。この難問を同氏はどうやって解決するのか。あるいは軍門に下るのか。予断を許さない。

【関 慎夫(せき・のりお)】
1960年新潟県生まれ。横浜国立大学工学部情報工学科中退。流通専門誌を経て1988年(株)経営塾入社。2000年から延べ10年にわたり『月刊BOSS』編集長を務める。2016年に(株)経済界に転じ『経済界』編集局長に就任した。担当経験のある業界は電機、自動車、流通、IT業界など。