切り離したスーパー部門のトップになぜ創業一族を据えたのか

 新たに設立される中間持ち株会社の社名はヨーク・ホールディングス。この下にイトーヨーカドー、ヨークベニマルなどのスーパー、アカチャンホンポ(赤ちゃん本舗)、ロフトなどの専門店、デニーズなどの外食等、計31社がぶら下がる。

 この中間会社は外部資本を受け入れることになっており、セブン&アイの連結対象からはずれる。そしてその会社の社長には、創業者の次男、伊藤順郎・セブン&アイ副社長が就任する。

 祖業のスーパー部門を分離し、そのトップに創業一族が就く。これは、イトーヨーカ堂の“大政奉還”という見方もできる。

 2016年よりセブン&アイの社長を8年間にわたり務める井阪氏だが、社長就任直前、セブン-イレブンの生みの親で、当時セブン&アイ会長だった鈴木敏文氏に更迭されるピンチを迎えていた。

 当時の井阪氏は事業会社であるセブン-イレブン・ジャパン社長だったが、鈴木氏から社長退任を要求されていた。この時、井阪氏は創業家を味方につけ、逆に鈴木氏を辞任に追い込んだ。その上でセブン&アイの社長に就任した。

 つまり井阪氏は伊藤家に恩がある。順朗氏は鈴木氏追放クーデターの時、取締役執行役員だったが、同年常務執行役員に昇格。2023年に代表取締役となり、今年副社長となった。そして今度は祖業部門の社長である。これは「井阪氏による創業家への配慮だ」というのだ。

 しかし、スーパー部門の再建がうまくいく保証はどこにもない。過去20年ほどセブン&アイはスーパー部門の改革に取り組み続けてきたが、成果は上がらなかった。ライバルであるイオンも、イオンモール部門は好調だが、スーパー部門は低収益に喘いでいる。

 百貨店に続いて大型スーパーの時代は終わったとも言われている。それだけに任された伊藤順郎氏の手腕に注目が集まるが、視点を変えれば、お荷物となった祖業を創業家に押し付けたと取ることができる。それはいずれ歴史が証明するはずだ。