(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年8月22日付)

セブンイレブンが買収されれば日本にとっては画期的な出来事となる(8月20日撮影、写真:ロイター/アフロ)

 どこでもいいから日本国内のセブンイレブンの店舗に入ってみると、日本企業が誇る最高の製品の数々が商品棚の最適な高さにずらりと並ぶ様子が目に入るはずだ。

 絶え間なく新製品が入れ替わるアサヒ、キリン、サントリーの飲料、任天堂のゲームのプリペイドカード、三菱のボールペン、明治のチョコレート「メルティーキッス」、バンダイのおもちゃ、資生堂の保湿液、グンゼのタイツ、「日清焼きそばU.F.O.」などなどだ。

 コンビニは消費者にとって楽しい場所だが、時代の大きな変化のように感じられる出来事により、世界中の企業やプライベートエクイティ(PE)ファンドの買収対象になり得る企業のショーケースに早変わりした感もある。

 M&A(合併・買収)に携わるある投資銀行家はこう言った。

 ゲーム、食品、衣料品のブランド、小売、エンジニアリングといった業種で日本の企業の名前を一つ思い浮かべてみるといい、そうすれば、その会社の買収に乗り出すべきかどうか考えている人が必ずどこかにいる――。

カナダ企業が今、大胆な買収提案に出たわけ

 最終的にはそこまで大きな変化にならないかもしれないが、たとえそうでも、アリマンタション・クシュタール(ACT)という企業と同社による日本の大手コンビニ企業買収計画は、日本の現状をひっくり返した感がある。

 カナダで小売業を営むACTは、大胆にもセブン&アイ・ホールディングスに買収提案を行った。

 そう、「セブンイレブン」を巨大なチェーンに育て、少しずつ改善を重ねることでコンビニエンスストア運営の技を磨き上げた時価総額360億ドル(約5兆3000億円)のあの巨大企業だ。

 この買収が実現すれば、外国勢による日本企業買収の過去最大の事例になる。

 そして、たとえこれが実現しなくても、日本のM&Aシーンはもう元に戻らないかもしれない。

 ACTの提案の詳細は価格も含めて不明で、法的拘束力のある正式な買収提案はまだなされていない。

 だが、明らかになっている情報からは大きな変化がうかがえる。

 その変化とは、ACTは何年も前からセブン&アイに目をつけてきたのに動き出したのは今であること、ACTが一方的に買収を提案してきたこと、そしてセブン&アイが特別委員会を立ち上げて提案を検討せざるを得ないと感じたことだ。