(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年8月8日付)
歴史の示唆するところによれば、米大統領選挙のランニングメート(伴走者)の選定には大きな歓声と怒号がつきものだが、それが選挙の行方に大きな影響を及ぼすことはめったにない。
カマラ・ハリスがティム・ワルツを選んだことは、決してささいな出来事ではない。だが、ワルツの登場で接戦の構図が変わったとしたら、それは衝撃だろう。
そのリスクはまだ、ドナルド・トランプがナンバー・ツーに選んだJ・D・バンスのものだ。
副大統領候補として発表されて以来、差し引きでマイナスの支持率はさらに低下し、記録を更新しているほどだ。
民主党の副大統領候補になったミネソタ州知事のワルツは、バンスの陰鬱な思考に対する明朗な解毒剤になる。
彼はまさに、普通の国民が一緒にビールを飲むところを想像できる気さくなタイプだ。
副大統領候補選びの思惑
それでも、そのワルツが選ばれたことからは、ハリスの考えについて――そして、民主党の政治が必要としているアイデンティティーのバランスについて――いろいろなことが読み取れる。
ジョー・バイデンが2020年の選挙戦で、自身の人口学的属性とのバランスを取るために副大統領候補は黒人女性にしたいとほのめかしたのと同様に、ハリスもランニングメートの候補を白人男性に絞り込んでいることを隠さなかった。
ミシガン州知事のグレッチェン・ウィットマーが、自分をすぐに候補者選びから除外したのはそのためだった。
運輸長官のピート・ブティジェッジについては、現職の閣僚ゆえにハリスがバイデン政権との違いを打ち出しにくくなることに加え、ゲイであることも影響した可能性がある。
実際、黒人女性とゲイの男性に投票するよう米国民に訴えるのは危険だったかもしれない。