(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年8月14日付)
中国の国債市場でバブルが発生している。少なくとも、中国人民銀行(中央銀行)はそう思いたがっている。
バブルだとすれば、金融の安定性を脅かすリスクになる。
しかし、そのようなリスクの存在は、それとは別の妥当な説に比べればはるかにましだ。
つまり、債券市場は中国経済の先行き、デフレの危険、そして方針転換の必要性といった懸念について緊急性の高い信号を発しているということだ。
債券利回りを下支えする人民銀
人民銀はここ数週間、多くの国でかつて行われていた金融の量的緩和(QE)の正反対にあたる奇妙な政策手段に取り組んでいる。
ほかの国々は景気を刺激するために長期債の利回りを押し下げようとしたが、人民銀はその逆で、利回りを下支えしているのだ。
中国国債10年物利回りは今年に入ってずっと低下(価格は上昇)しており、8月上旬には2.1%を一時割り込んだ。
すると人民銀が介入し、これを2.1%より上に押し戻した。金融当局は、国債を購入した地方銀行の一群を名指しで非難することまでした。
自室を整理整頓したことを問題視して子供を叱るような、かなり変わった対応だ。
人民銀が懸念しているのは金融の安定性への影響だ。
特に、銀行が期間の長い債券を買い集めてデュレーション・リスクを高めている時に金利が上昇したら、投資家に高リターンを約束しているレバレッジ投資ファンドが打撃を被ったり、米国のシリコンバレー銀行のそれに類似した破綻リスクが生じたりする。
また、イールドカーブ(利回り曲線)が平坦になりすぎる時には、もっと深刻なリスクが生じる。
中国の巨大な国有銀行が、期間の短い金利と長い金利との差から利益を得ることが難しくなってしまうのだ。
しかし、金融の安定性確保のために債券利回りのことでやきもきするというのは不思議な話だ。
なぜか。
投資ファンドがレバレッジを濫用しているのであれば、規制をすれば済む。銀行がデュレーション・リスクでギャンブルをしているのであれば、当局がその強大な権限を行使してやめさせればいい。
債券利回りを特定の水準に止めておきたいというのであるなら、別のシナリオが浮かび上がる。
すなわち、市場は合理的に振る舞っており、中国国債は割高ではないが、人民銀はそうした状況が示していることを受け入れられずにいるということだ。