バランスが取れているベトナムの半導体政策

 2024年9月25日付の日本経済新聞によると、ベトナムのIT最大手FPT社が半導体の後工程(つまりOSAT)に参入するという。

 前掲記事によれば、FPTは1988年に創業し、2000年ごろからソフトウエアの受託開発で急成長したという。そして半導体産業については、まず2022年にファブレスに参入し、さらに前述したようにOSATに参入することになる。

 半導体事業を拡大する計画のFPTは、2006年に設立したFPT大学で約1万5000人が回路設計などを学び、2030年までに半導体技術者を今の200人の50倍の1万人に増やす計画であるという。

 そして、ベトナムのファム・ミン・チン首相が「半導体産業の育成は最優先事項だ」と明言し、9月21日に承認した産業戦略では、外国直接投資(FDI)の誘致によって2030年までに設計会社(ファブレス)を100社、小規模な前工程の拠点(ファウンドリー)を1カ所、後工程の拠点(OSAT)を10カ所、市場規模を年250億ドル以上にする目標を掲げたという。

 ファブレス100社、ファウンドリー1拠点、OSAT10拠点という目標は、非常にバランスが取れた優れた目標であると思う。巨大なファウンドリーがあったところで、そこに生産委託するファブレスがなければ、そのファウンドリーが機能しない。また、OSATがなければ半導体チップの完成品ができない。このような半導体産業の事情を、FPTもベトナム政府も良く理解していると言える。

 一方、日本政府は、TSMCを熊本に誘致しただけで、5社くらいしかないファブレスの強化も、日本に足りないOSATの誘致も行っていない。これでは全く中途半端であり、このままでは、TSMC熊本工場の能力を生かすことができない。日本も、ベトナムを見習って、バランスの取れた半導体政策を立案し、実行するべきである。ベトナムにできて日本にできないはずはないと思う。

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