(写真:VCG/アフロ)

 パット・ゲルシンガー氏が11年半ぶりに米インテル(Intel)に戻り、8代目のCEO(最高経営責任者)に就任したのは2021年2月だった。同氏はCEO就任直後から企業買収に熱心だった。だが、今は同社自体が買収対象となっている。これはいったいどういうことなのか。

クアルコムがインテルに買収を打診

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先ごろ、米クアルコムがインテルに対し、買収を打診したと報じた。クアルコムはスマートフォン向けの半導体に強みを持つ。この業界で主要メーカー2社のM&A(合併・買収)が実現すれば、スマホ、パソコン、サーバー市場で大きなシェアを持つ巨大企業が誕生することになる。そのため、インテルが買収提案を受け入れたとしても、両社は世界中で厳しい反トラスト法(独占禁止法)の審査に直面することになるとロイター通信などは伝えている

 しかし、スマホ半導体の大手であるクアルコムがインテルを買収するとは、少し前までは考えられないことだったとWSJは報じている。というのもインテルは数十年にわたり、世界で最も時価総額の大きい半導体企業として市場に影響力を及ぼし、その製品はパソコンやサーバーで広く使われてきたからだ。

 ファブレスメーカーが、台湾積体電路製造(TSMC)などのファウンドリー(受託生産)企業に製造を委託する「分業制」が進む中、インテルのように設計と製造を手がけるIDM(垂直統合型デバイスメーカー)は珍しく、同社は両分野で世界をリードしていた。

アジアの競合に後れ、そしてAIブーム

 ところが、ゲルシンガー氏がCEOに就任する前に状況は一変した。WSJによれば、そのころのインテルは先端半導体の製造競争でアジアの競合に後れを取っていた。そこで、ゲルシンガー氏はクアルコムのようなファブレスメーカーから製造を受託する事業を始めた。すなわち、TSMCや韓国サムスン電子が市場を支配するファウンドリー事業への参入である。ゲルシンガー氏は、インテルを30年までに世界第2位のファウンドリー企業にするという目標を掲げた。