2人がとる欲望にまみれた行動を全面肯定!

The Substanceのパッケージに封入されたREMEMBER YOU ARE ONEの注意書き
The Substanceのパッケージに封入されたREMEMBER YOU ARE ONEの注意書き(写真:IMDb)

 エリザベスは7日ごとに「ベター・バージョン」の自分を経験するようになったことで、むしろオリジナルの自分の価値が下がっていうように感じられ、孤独が深まり、自暴自棄になっていく。そこで、自身の価値を再確認しようと、偶然、再会した高校時代の冴えない同級生に連絡をとり食事の約束をする。

 ディナーに向かうエリザベスの服装やメイクへの細かいこだわり、年相応とは何か、派手になりすぎていないかなどに思い悩む描写は、女性監督にしか描けないリアリティがあった。エリザベスが本質的に求めていることは、若返ることではなく、誰かに必要とされることにある。

 この「誰かに必要とされること」という欲求のためにする行動を、この映画は全面的に肯定する。The Substanceの用法に書かれた「2人で1人なのを忘れないこと=Remember You Are One」という文言にあるように、エリザベスもスーも結局は同じ人間で、この2人(あるいは1人)が抱えているのは「誰かに必要とされること」なのだ。

 そして、この2人がとる欲望にまみれた行動を、本作はジャッジせずに全面肯定していく。

 デミ・ムーアのインタビューにあった「自らに対する愛と自己受容の欠落、そして男性によって理想化された女性像を受け入れた私たち」を捨て去り、自分の価値を探す2人の欲望を全面的に肯定し、それが盛大なホラー映画的ラストに向けて花開いていくというのも、ホラー映画ファンであり、フェミニストを自称する女性監督だからこそ達成できたことでもあるだろう。