ボディホラーを現代にリバイブした「The Substance」

The Substanceを接種しオリジナルが若いバージョンを生み出した後The Substanceを接種しオリジナルが若いバージョンを生み出した後(写真:IMDb)

 このクスリには用法がある。オリジナルと分身(若いバージョン)は7日ごとに例外なく入れ替わらなければいけない。若返った自分がどんなに人気が出てチヤホヤされようとも、7日後にはオリジナルの自分に戻ってまた7日間過ごす。そうすれば、また若い自分に戻ることができるのだ。

 しかし、エリザベスを降板させた後の新番組のインストラクターとして冠番組をもち、ナイトライフもラブライフも充実しきっている若いバージョンのエリザベスであるスー(マーガレット・クアリー)がその日数を厳守できるわけもない。

 用法を守れなかったことの副作用としてオリジナルの自分の細胞が変化していってしまう。酒池肉林に身も心も捧げると、その代償を払わされるという、まるで「浦島太郎」のような設定なのだが、「The Substance」は、この身体が変化していく様子をボディホラーと呼ばれるジャンルを使って強烈な映像で見せていく。

 ボディホラーとはホラー映画のサブジャンルで、身体の変形や損傷、奇形、壊死などを通して、身体に対する恐怖や不安、アイデンティティの揺らぎ、喪失などを描くジャンルだ。

 代表的な作品としては、ボディホラーの創始者とも呼ばれるデイビッド・クローネンバーグが監督した「ザ・ブルード」(1979年)や「ザ・フライ」(1986年)がある。「ザ・フライ」でハエと人間が融合した男の姿を見たことある人はお分かりのように、視覚的なインパクトの強い映画ジャンルだ。

 本作も、元女優で現在はエアロビクス・インストラクターという、ボディ・コンシャスな女性を主人公に、現代の女性が自分たちの身体に対して抱える恐怖やコンプレックスを描くのにこのジャンルを活用しており、結果、最良の方法でボディホラーを現代にリバイブしている。

 リバイブといえば、主演のデミ・ムーアもこの映画で見事に復活している。デミ・ムーア以上に、この役に適したキャストはいないだろう。