コスパが高いトンネルはすぐに復活した

小池:インフラ復旧に関する政治的な意思決定の仕組みが十分に整備されていないことが問題です。

 例えば、9月21日に輪島市の中屋トンネル付近で豪雨による土砂崩れがあり、震災の復旧工事にあたっていた作業員と住民が亡くなりました。中屋トンネルでは震災後、片側通行が可能な簡易的なシェルターを当面つくった上でトンネルの完全復旧を目指そうとしており、その矢先での出来事でした。

豪雨による無数の流木が積み重なる石川県輪島市町野町=9月29日(写真:共同通信社)

 ただ、中屋トンネルに関しても、もっと予算を投入し資材を入れていれば早期に復旧した可能性は高いのです。2023年9月上旬に発生した山陽道・尼子山トンネル下り線の火災事故は約3カ月で復旧しました。大都市をつなぐ道路で、経済合理性の観点から考えた時、極めて重要な存在であることから、大手のゼネコンが全力で復旧工事を担当したのです。

 一方の能登半島では、震災から9カ月も経っているのに道路復旧に対する投資に乏しく、国会では今回の豪雨災害への補正予算もいまだに成立していません。震災が発生した時点で水害に対する対策を打てていたのかも疑問です。

 さらに、震災前から日本では道路の整備効果におけるコスパ指標である「費用便益比(B/C)」を絶対的な指標とし「人口が減っていく地方の道路に対する投資は無駄だ!」という論調が多数派を占めていたことで、能登半島の市町村道はもともと十分な状態にありませんでした。

 実際に市町村の役所では土木の専門家が「ゼロ」という状況も珍しくありません。道路の補強を担当する地元企業も需要がない、あるいは後継者・労働者不足から廃業に追い込まれているのです。

 いまだに「復興より移住を」という議論が盛んになっていることからわかるよう、「投資効果」にとらわれるばかりに二次災害が拡大してしまったとも言えるのではないでしょうか。

 ただ、永田町や大手マスコミが打ち出す「復興より移住」「復興の“コスパ”論」を、日本国民が支持しているかというと、そうとも言えません。

 石川県によれば、全国から集まった義援金は338億円(9月29日付)を超えます。「過疎地に住んでいる人も、元通りの生活に早く戻ってほしい。災害に強いインフラを整備し、もう一度活気に溢れる地域をつくってほしい」と考えている国民は想像以上に多いのでしょう。

 本当に日本国民が能登半島の歴史・文化を断絶させてまで、集団移住を前提に生活インフラを中央に集約する「コンパクトシティ」をつくって欲しいと考えているのか、私は大いに疑問です。