豪雨の爪痕がいまも残っている。写真は門前町深見(写真:筆者撮影、以下同)
  • 石川県輪島市門前町浦上地区は、約210世帯・430人が居住する26の集落からなる。元日の地震で住宅が全半壊し、現在は150世帯ほどに減った。道路の多くは寸断されたままで、山間部から平野部への集団移住も検討されている。
  • 9月には豪雨が襲い、多くの流木が流れ込んだ。「二次災害」により復興は極めて困難な状況に陥っている。
  • 10月6日、同地区を取りまとめる喜田充・区長会長(75)に現地でインタビューした。喜田氏は浦上地区の平野にある公民館近くに「災害公営住宅」を建設するべきだと説く。豪雨による水害は「山林の保水力が低下した人災」とも指摘し、同様の災害は山間部ならどこでも起こり得ると警鐘を鳴らす。前・後編でお届けする。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

>>【前編】きれいごとでは復興できない…「私も車ごと河川の氾濫に巻き込まれた」限界集落の区長が訴える窮状

ほとんど間伐されなくなった浦上地区の山林

前編から読む

喜田充・輪島市門前町浦上地区区長会長(以下、敬称略):なぜこれほど多くの流木があったのか。山林の間伐が行き届いておらず、山の保水力が低下しているからでしょう。

 私が子どもの頃、浦上地区の大人は林業を生業にしている人たちが多かったものです。当時は県木の「アテ」(編集注:ヒノキアスナロ)やスギの値段が高く、公務員など現金収入の仕事と間伐や木の伐採をしていれば十分に生活ができました。

浦上地区区長会長の喜田充氏

 ところが過去40年ほどで、林業で全く生活が成り立たなくなりました。昔は家屋の柱が1本2万円ほどで取引されていたのに、現在は1000円ほどです。浦上地区の主力産業だった林業が廃れたことで、集落を出た若者は帰ってこなくなり、高齢化と人口減が進みます。

 さらに山も放置されていることから間伐が進まず、災害に脆弱になってしまったのです。林業全体が衰退してしまったことから木が伸び放題になり、今では「誰がどのエリアの所有権を保有しているか」さえうやむやになっているケースもあります。

 山林の保水力を保つ上で極めて重要な間伐は、森林組合が県の補助金をもらって時折実施する程度。昨日ある山を見に行ってきましたが木の倒れ方はまぁすごい。山も相当崩されています。