能登半島地震では多くの道路が陥没などし通行できなくなった。写真は石川県穴水町近郊(写真:ロイター/アフロ)
  • 能登半島地震では道路が陥没したり、法(のり)面が崩壊したりするケースが多発した。道路復旧に時間がかかり、地域住民は一時的な「疎開」を迫られる可能性が浮上している。
  • 土木計画専門の神戸大・小池教授は、こうした状況を「老朽化した道路を放置してきた我々日本国民の責任」と嘆く。
  • 小池氏は、フランス・イギリスといった国々は地方へのインフラ投資を積極的に行なっていると話し、日本の道路行政の転換を求める。

(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)

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過激すぎる「コスパ思想」の成れの果て

──能登半島地震で陥没した道路は、県道・市町村道が中心です。これらの道路の補修・補強を目的とした土木工事の中には、「ムダ」と切り捨てられてきたものも少なくありません。

小池淳司・神戸大学大学院工学研究科教授(以下、敬称略):約25年前、新自由主義を掲げる政治家が要職に就き、土木行政は「道路の整備効果におけるコスパ指標」である「費用便益比(以下、B/C)」を中心にインフラ投資を行ってきました。その結果として、道路整備への投資額は半減、さらに行政改革のあおりから、地方の県道・市町村道の老朽化が激しくなっている、と前回お話ししました。現在でも「人口減社会において、過疎化する地方の道路に投資するのはコスパが悪い、ムダだ」と切り捨てる人もたくさんいます。

石川県輪島市(写真:ロイター/アフロ)

 そもそも、先進国でB/Cをインフラ投資の基準に義務付けているのは日本だけです。土木行政でB/Cを最初に取り入れたイギリスでさえ「B/Cは参考にするが、(投資決定時の)絶対的な基準ではない」としています。フランスなど欧州諸国でも同様の傾向にあります。

 要は「道路は我々の生活を支える社会基盤であり、単に全国で集計された投資効果だけを考えて予算をつけるべきではない。自分がその地域に住むとして、受け入れられる程度の水準までは引き上げよう」という意識が行き渡っているのです。

 対する日本はどうか。現在の公共施設の投資額は30年前と比較するとほぼ半減しています。「人が住まなくなるところに投資は必要ないだろう」と日本人の多くが考えるようになった結果です。能登半島地震で道路の復旧が難しくなり、孤立住宅が多発した後に「かわいそうに」と同情するのは、国としての責任を放棄していると私は思います。

小池 淳司(こいけ・あつし)神戸大学大学院工学研究科 教授 1992年岐阜大学工学部土木工学科卒業。1994年岐阜大学大学院工学研究科博士前期課程修了(土木工学専攻)。岐阜大学助手。1998年長岡技術科学大学助手。1999年博士(工学)(岐阜大学)。2000年鳥取大学助教授。2007年鳥取大学准教授。2011年神戸大学大学院工学研究科教授

──感覚的に「土木工事は将来の利益と現在のコストのバランスを考えて必要な予算だけをつけるべきだ」とするのは分かるような気もしますが、ダメなのでしょうか。