能登半島地震の発生直後、X(旧Twitter)上ではフェイク情報による「インプ稼ぎ」が横行した(写真:JRdes/Shutterstock.com
  • 能登半島地震では発生直後、東日本大震災で発生した津波の動画を貼り付け、X(旧:Twitter)に投稿するユーザーが多発した。広告収入を目的にした「インプレッション(インプ=表示回数)稼ぎ」と見られる。
  • SNSに詳しい桜美林大学・平教授は「インプ稼ぎの背景として、X社が2023年夏に展開した広告収益分配プログラムが指摘されている」と述べる。
  • 平氏は「表現・言論の自由は守らなければならないが、危機に乗じて“金儲け”をするユーザーに対しては何らかの対策を講じる必要があるのでは」と提唱する。

(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)

誰がインプ稼ぎをしているのか?

──能登半島地震の発生直後、2011年3月11日の岩手県宮古市の津波の映像を使用し、「逃げてください!」と書かれたポストが300万回以上表示されるなど、「バズり」ました。「インプ稼ぎ」は社会問題化しています。

平和博・桜美林大学リベラルアーツ学群教授(以下、敬称略):SNS上での虚偽情報(フェイクニュース)にはいくつかの分類が可能ですが、能登半島地震で大量発生した過去の津波動画などの投稿は「お金儲け」のものも多いようです。

地震発生直後からテレビでは大津波警報を伝えていた(写真:AP/アフロ)

 そもそも、インプ稼ぎはどのようにして発生するようになったのか。イーロン・マスク氏がX社の最高経営責任者(CEO)に就任した後、日本では昨年8月から導入された「広告収益分配プログラム」が事の発端です。

 有料サービスの「Xプレミアム」に登録したアカウントで、特定の条件を満たしたユーザーの投稿に「返信」の形で広告が掲載されると、広告収益の一部をユーザーに分配するプログラムです。

X(旧Twitter)を買収した起業家のイーロン・マスク氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 元々、マスク氏は広告収益プログラム導入の動機を「(自動投稿を繰り返す)ボットを撲滅すること」としていました。有料会員を増やすことで、ボット会員を減らそうとしたのです。皮肉にも、能登半島地震で「インプ稼ぎ」を行なっていたユーザーの中には、有料会員も含まれていました。

 インプ稼ぎを行う投稿者の素性は分かりません。投稿者の居住地は「米国」「バーレーン」など様々ですし、言語も「ウルドゥー語」「英語」などまちまち。日本居住者が偽ってこれらの居住地・言語を設定したのか、本当にこれらのエリアに住むユーザーなのか、詳しいことは明らかになっていません。

 インプ稼ぎが組織的なものか、自然発生的なものかもよくわかりませんが、こうした投稿を大量作成するユーザーは、表示回数の多い投稿をチェックして「コピペ」しているのでしょう。

平 和博(たいら・かずひろ)桜美林大学リベラルアーツ学群教授・ジャーナリスト
早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPT  vs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

──そもそも、なぜ「インプ稼ぎ」は問題視されているのでしょう。