- 中国が、米国社会の混乱と分断を狙いスパイ活動や陰謀論の流布をしているとの懸念が高まっている。
- 生成AIを駆使し偽画像などを作り、「ハワイの火事は米国の気象兵器の実験失敗が原因」などといった情報を拡散させているとみられる。
- 新型コロナの変異株「EG.5(通称エリス)」の感染拡大に関する情報が悪用される可能性もある。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
「我々は安定性に関して話を交わし、全く対立的ではなかった。私のスタッフは習主席の内閣といつも会っている」
バイデン大統領は9月10日、インドのニューデリーで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議の期間中に中国の李強(リー・チャン)首相と会ったことを認め、中国との関係正常化に取り組んでいることを強調した。
バイデン氏は中国との関係を楽観視しているが、米国での中国に対する警戒心は日に日に高まっている感が強い。
今年6月、ニューヨーク市で中国政府の指示で在外の中国人や華僑の活動を監視していた中国系米国人2人が米連邦捜査局(FBI)に逮捕された。中国政府が明確な主権侵害を行っていたことに米国社会に衝撃が走った。
米軍に対するスパイ活動も明らかになっている。
9月3日付の米ウォールストリート・ジャーナルは「観光客を装うなどして中国人が米国内の軍事基地や機密施設に接近するケースがこの数年で100回にも及んでいる」と報じた*1。ニューメキシコ州のミサイル発射場に侵入を試みたり、フロリダ州のロケット発射場付近の海を泳いだりとケースは様々だが、米当局は「中国政府の指示を受けた中国人が関与している」と判断している。
*1:Chinese Gate-Crashers at U.S. Bases Spark Espionage Concerns(9月3日付、米ウォールストリート・ジャーナル)
中国政府の米国社会への介入はネットの世界にも及んでいる。
米マイクロソフトは9月、サイバー攻撃に関する調査報告書を公表し、「SNS上で中国の工作員と見られる偽アカウントが米国の世論を誘導しようと試みている可能性がある」と指摘した。今年3月頃から銃規制や特定の政治家など論争になりやすいテーマに焦点を当てた誤情報が増え、生成AI(人工知能)で目を引く画像を使って発信しているのが特徴だという*2。
*2:中国、SNS偽情報で米世論誘導(9月11日付、日本経済新聞電子版)
SNS上でのフェイクニュースに対する警戒感は、ロシアが介入したとされる2016年の大統領選挙を契機に強まった。米国では「来年の大統領選は中国からの情報操作が問題だ」との認識が広まっている。