- ウォール街を中心に「米国経済はリセッション(景気後退)入りしない」との楽観論が広がっている。
- だが、米国経済は決して盤石ではない。個人消費に陰りが見え、貯蓄は減り借金が増えている。格差拡大と異常気象が貧困層を直撃中だ。
- 低所得者の不満はマグマのようにたまり、政治の機能不全を助長し経済の足を引っ張りかねない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
9月1日に公表された8月の雇用統計に市場関係者は色めき立った。非農業部門の就業者数は前月に比べて18万7000人増加したものの、「過熱状態にあった雇用の勢いは鈍っている」と評価したためだ。「雇用市場が正常化したことで物価高の圧力となっていた賃金の上昇が収まり、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが終了する」との期待から、株式を始め金融市場は好調さを維持している。
だが、米国経済の先行きを楽観視してはいけない。
米国の国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費に陰りが見えているからだ。
米国の消費者は高インフレの下、新型コロナのパンデミック期に積み上げた2兆ドル(約290兆円)以上の貯蓄を取り崩して支出を続けてきたが、過剰貯蓄は今年9月までに底を突くとの見方が出ている*1。
*1:米消費者、パンデミック期の貯蓄縮小-リセッション回避か否か鍵握る(8月20日付、ブルームバーグ)
消費を維持するための借り入れも増加している。ニューヨーク連銀の四半期報告によれば、第2四半期の米家計におけるクレジットカードの債務残高は1兆310億ドル(約148兆円)と過去最高となった。延滞率も上昇し、新たな支払いが30日以上遅れた割合は7.2%となり、約11年ぶりの高水準となっている*2。
*2:米カード債務残高、4〜6月は過去最高 11年ぶり延滞率(8月9日付、日本経済新聞電子版)
医療費の借金も膨らんでいる。審査の甘い高金利の医療専用のクレジットカードローンが若年層を中心に普及しており、その額は最大1400億ドル(約20兆円)に上るとの推計がある*3。
*3:米、「医療費借金」20兆円 審査甘い高利クレカ拡大、政府は警告(7月27日付、日本経済新聞)