米キャンプデービッドで会談した日米韓の首脳(写真:AP/アフロ)
  • 「世界最強」の米軍が徴兵制廃止以来の危機に直面している。
  • イメージ悪化による採用難のほか、そもそも肥満により適格者が減っている。ウクライナ支援で兵器の在庫も足りない。
  • 人工中絶をめぐる党派対立で海兵隊・海軍・陸軍のトップが空席という異常状態。米軍が弱体化すれば日本の安全保障にも影響を及ぼす。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

「(中国と日韓の間に)不和の種をまこうとする恣意(しい)的な試みだ」

 中国外務省の報道官は8月21日、バイデン米大統領が18日にキャンプデービッドで日韓首脳と会談したことについて、このように非難した。台湾問題や南シナ海における中国の行動について言及されたからだ。

 バイデン政権は南シナ海の実効支配を進める中国に対する包囲網を強化しており、中国と海洋権益を争うフィリピンを多国間で支える体制も整備しようとしている。中国では「日米韓でNATO(北大西洋条約機構)のような軍事組織を構築するのではないか」との疑念も生じている。

 バイデン政権がアジアでの軍事的プレゼンスを急速に高めつつあるのは、米国内で中国の軍事的脅威への対応を求める声が強まっていることが背景にある。ロイターが8月16日に公表した世論調査によれば、「中国の軍事的脅威への取り組みが必要か」との問いに米国民の66%が賛同した。

 こうした米国の一連の対応により、日本の安全保障環境は改善するのだろうか。実は事態はそう単純ではない。米軍そのものの弱体化が懸念されているからだ。

 まず短期的に気になるのは、米軍の兵器や弾薬不足だ。ウクライナへの軍事支援により在庫は底を突きつつあり、在庫の補充に数年を要すると言われている。

 さらに中長期的に深刻なのが兵員不足だ。米軍は2022会計年度(2021年10月~2022年9月)の採用目標を達成できず、2023年度も達成のめどが立っていない。

 最も深刻なのは陸軍で、2022年度の採用実績は4万4900人にとどまり、目標の6万人を大幅に下回った。空軍の状況も厳しい。2023年度は採用目標を10%以上下回る見通しだ。米軍は新兵獲得のためのキャンペーンを展開しているが、成果のほどは定かではない

※米軍、人手不足が深刻化 Z世代勧誘に苦慮(日本経済新聞電子版、2023/5/16)