韓国最高の北朝鮮通として最近『日韓同時核武装の衝撃』(ビジネス社)を出版した鄭成長(チョン・ソンジャン)博士は、韓国社会の雰囲気を次のように説明する。

「今年1月に発表された世論調査では、72.8%の韓国国民が自国の核武装は必要だと答え、韓国内の安全保障専門家たちも3割程度が核保有に賛成している。尹錫悦政権の金容賢(キム・ヨンヒョン)国防部長官と金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官も、核自強論に対して前向きな立場を明らかにし、次期大統領候補の呉世勲(オ・セフン)ソウル市長は、核保有論を『安保持論』としている。かつてないほど(核保有論に対する)肯定的な世論が形成されている」

米国との「核共有」も模索

 独自の核武装の代わりに、戦術核の再配置、または核共有を主張する専門家も増えている。

 世宗研究所のキム・ヒョンウク所長は、『中央日報』とのインタビューで、「民主党政権の再発足の際には、韓国軍戦闘機に米軍核兵器を搭載する『NATO式核共有』方式を推進し、戦術核搭載の核潜水艦を韓半島に展開するなど、実質的な『核の傘』政策を誘導しなければならない」と主張した。

 チェ・ウソン国立外交院教授は『ソウル新聞』への寄稿で、「韓米がグアムを基地に核共有を実行すれば危機時に核戦力を韓半島近隣に柔軟に展開し抑制力を強化できる」と主張した。

 次期韓国大統領候補の一人である「国民の力」の安哲秀(アン・チョルス)議員は22年、「韓国式核共有論」を提唱した。安議員は「米韓間の核共有」、あるいは「日本と豪州を含む多国間協議体を通じての核共有」という2つの核共有方式を提案しているが、これは石破新首相の「アジア版NATO創設」主張と酷似している。

 米韓政府はこうした主張に対し公式的にはまだ線を引いているが、尹錫悦大統領は、昨年新設された米韓間のNCG(新しい核協議グループ)をもとに「独自の核武装がなくても北朝鮮の核脅威を実質的に抑制・対応できる体制が構築された」と主張している。NCGとは、北朝鮮の核攻撃状況に備えて米韓が米国の核兵器を共同で企画・実行するようにする協議体だ。

 ただ、米国の核使用の最終権限はあくまでも米国大統領にあるため、十分な抑制力にはなれないという点で実効性には異論が多い。北朝鮮が米本土まで到達するICBMを保有している現実を勘案すれば、韓国が北朝鮮核の攻撃を受けた場合、実際に米国が反撃するかについて、韓国の安全保障専門家たちは非常に懐疑的な反応を見せているのだ。

 中国・ロシア・北朝鮮の接近で東アジアの安全保障に対する脅威が高まっている一方、北朝鮮核の人質になってしまった韓国で火がついた核保有主張は、隣国の日本としても関心を持って持続的に見守らなければならないだろう。