- イスラエルとヒズボラが全面衝突する可能性が高まっている。反イスラエル勢力が結集する可能性もあり、イスラエルの報復が激しさを増しかねない。
- イランがイスラエルへの攻撃に直接参加する可能性は低いと考えられるが、イラクの親イラン武装組織の連合体がイスラエルへの攻撃を続けるかもしれない。
- その場合、イスラエルが産油国であるイラクに攻撃を仕掛ける可能性を排除できなくなり、原油市場に与えるインパクトが懸念される。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=67ドルから72ドルの間で推移している。先週と同様、上下の振れが激しい展開となっている。それでも、「米連邦準備理事会(FRB)の大幅利下げにより、世界最大の消費国である米国の原油需要が堅調に推移する」との観測が原油価格を下支えしている。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
石油輸出国機構(OPEC)は9月24日に発表した2024年版の世界石油見通しで「2050年の世界の原油需要は2023年に比べて17.5%増えて日量1億2010万バレルに達する」と予測した。先進国で構成する経済協力開発機構(OECD)加盟国で需要は落ち込むものの、インドを中心に発展途上国の需要が大幅に伸びるというのがその根拠だ。
輸送部門で電気自動車(EV)の普及が進んでも、2050年時点でも世界の自動車の7割以上が内燃機関車になるとしており、「原油需要のピークは近い将来に訪れることはない」と結論づけている。
だが、市場はこれに反応しなかった。需要サイドの弱気材料が増える一方だからだ。
市場関係者は欧州の原油需要の低迷にも注目し始めている。
S&Pグローバルが23日に発表したユーロ圏の9月の総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)が48.9と前月の51から低下した。製造業PMIも44.8と前月の45.8から下がったため、「欧州景気の悪化が原油需要を抑える」との見方が売りを誘った。
「第2の中国」と期待されるインドの8月の原油需要も前年比1.3%減の日量511万バレルと5カ月ぶりの前年割れとなった。
市場の注目が集まる中国では24日、追加の金融緩和策が発表された。市中銀行の融資拡大を促す目的で預金準備率を0.5%引き下げるとともに、住宅購入に関する家計負担を軽減するというのがその内容だ。
中国人民銀行(中央銀行)の発表直後「需要の伸びにつながる」として原油価格は上昇したが、その後「減速している中国経済を支えるには大規模な財政政策が必要」との認識が広がり、原油価格の「上げ」は帳消しとなった。
一方、供給サイドでも大きな「売り」材料が出てきた。
26日付英フィナンシャル・タイムズが「サウジアラビアが12月から増産する用意がある」と報じた。サウジアラビアは財政収支の均衡を保つために100ドル近くに原油価格を引き上げる狙いがあるとされてきたが、「減産では価格を引き上げるのが難しい」とし、増産に転じる判断を下したという。
市場では「減産幅の縮小をさらに延期する」との見方があったため、報道直後に原油価格は一時、1バレル=66ドル台に下落した。