イスラエルの攻撃、次はイラクか

 イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラとの間の全面衝突のリスクが現実味を帯びている。「レバノンはもう一つのガザになる」との嘆きの声も聞こえてくる。

「レバノンはもう一つのガザになる」との声も。写真はイスラエルから攻撃を受けたレバノン南部(写真:ロイター/アフロ)

 市場では「イランが戦闘の当事者になる」との認識が広まりつつあるが、筆者は「その可能性は依然として低い」と考えている。

 米ネットメデイア「アクシオス」は24日「ヒズボラは後ろ盾であるイランにイスラエルへの攻撃参加を要請したが、イランは難色を示した」と報じている。

 イランは7月末に首都テヘランで起きたハマス最高指導者の暗殺に関与したとしてイスラエルへの報復を宣言したが、その後2カ月近く自制している。国内で強まる政府への不満解消が最優先事項であるイランの新政権にイスラエルと直接戦火を交える余裕はないのではないかと思えてならない。

 イランの動きよりも警戒すべきは中東地域における米国の威信低下ではないだろうか。

 イスラエル軍による一連のレバノン攻撃は、中東地域の戦線拡大の回避を求めるバイデン米大統領の顔に泥を塗る行為に等しく、同地域における米国の抑止力の低下が改めて浮き彫りになっている。

 米軍の「にらみ」が効かなくなっている中、イスラエルとヒズボラとの間で全面戦争が勃発すれば、中東地域における反イスラエル勢力が結集する事態になりかねない。

「イエメンの親イラン武装組織フーシ派に続け」とばかりに、イラクの親イラン武装組織の連合体は22日「イスラエルに無人機(ドローン)攻撃を実施した」と発表した。イスラエル側に被害は出ていないが、イラクからの攻撃が続けば、イスラエル軍が産油国イラクに大規模な攻撃を仕掛ける可能性は排除できなくなるだろう。

 拡大し続ける中東紛争に湾岸産油国が巻き込まれないことを祈るばかりだ。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。