AIサイエンティストの限界と潜在力

 まずはAIサイエンティストの能力の限界についてだ。

 既に説明した通り、AIサイエンティストは研究アイデアの生成、コードの作成、実験の実行、結果の分析、研究論文の執筆、作成した論文の査読までを自動で行うことができ、その査読を活用して自身の作業を改善することができる。

 しかし現時点では、研究範囲は機械学習分野に限定され、開始する際のインプットにも一定のテンプレートが設定されている。ありとあらゆる分野を対象にできるわけでも、基本的なガイドラインから外れた、まったく独創的な研究を行えるわけでもない。

 またハルシネーションについては、前述の通り対策がなされているとはいえ、完璧に押さえ込んでいるわけではない。

 実際に使用したものとは異なるハードウェアやソフトウェアを使用したと主張するなど、実際にハルシネーションが起きた事例も報告されている。生成されたアイデアを実装する際のミス、論文執筆における文章上のミスなど、他にも誤りを犯す可能性が指摘されている。

 その結果、AIサイエンティストから生成される論文の品質は一定ではなく、一部の人間の査読者は、それらを低品質だと評価している。Sakana AIの開発者たちも、まだAIサイエンティストが開発の初期段階にあり、さまざまな限界があることを認めている。

 したがって現時点でAIサイエンティストは、いまのところ科学界を一変させるような研究を自力で行うというよりも、人間の研究者を支援して既存のアイデアを改良させることに優れていると言えるだろう。もちろん、それだけでも十分な価値があり、さまざまな科学分野の発展を加速させる可能性がある。

 実際に一部の専門家は、前述のような限界があるにもかかわらず、AIサイエンティストが研究者にとって価値あるツールになり得ると考えている。