AIサイエンティストが「執筆」した論文(実際のもの)

 3番目の機能は「論文執筆(Paper Write-Up)」である。これも文字通り、人間の研究者が書くのと同じスタイルで論文を執筆してくれるというもので、既に何本もの「AIサイエンティストが執筆した」論文が公開されている(以下のイメージはそのひとつで、原文はこちらから確認できる

AIサイエンティストが「執筆」した論文の例AIサイエンティストが「執筆」した論文の例
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 生成AIの国語力、あるいは作文力がいかにハイレベルなものに達しているかは、改めて説明するまでもないだろう。

 さらに、AIサイエンティストでは、いわゆる「ハルシネーション(幻覚、生成AIが事実ではないことをさも事実であるかのように語ってしまう現象)」の問題を軽減するために、論文を起草する際、実際に行われた実験の記録(「実験の設計と実行」機能を通じてまとめられたもの)と、正確性が確認されている情報のみに依存するよう指示がなされている。

 そして最後の機能が「論文レビュー(Paper Reviewing)」だ。これはいわゆる「査読(新たに執筆された研究論文に対して、その分野における第三者の専門家が、内容の妥当性や信頼性等をチェックする作業)」を模倣したもので、AIサイエンティストがいま生成した論文を、自らレビューするプロセスとなっている。

 前述の通り、現時点では機械学習分野に研究範囲を絞っているため、自動レビューが既に確立されている学術基準に沿って行われるよう、機械学習の主要な会議であるNeurIPSのガイドラインに基づいてレビューアルゴリズムを設計しているそうだ。

 またこのレビューの際、論文のどこに強みがあるのかだけでなく、どの部分に改善が必要かといった指摘を行うこともできる。たとえばデータが十分でない、結論が早すぎるといった具合だ。AIサイエンティストはこうした評価を自動で行い、次の研究に反映させることができる。

 この4つの機能を駆使することで、AIサイエンティストは人間の科学者のように研究活動を実行できるのである。その可能性について、Sakana AIは「科学研究の姿を変える潜在力」を秘めているとまで宣言している。

 さらに、AIサイエンティストはコストという点でも魅力的であり、今回の発表された実証実験では、「各アイデアが実装され論文となる過程には1本あたり約15ドル(2300円)のコスト」しかかからなかったそうだ。

 まさしく良いことずくめのAIサイエンティストだが、本当に科学者もAIに取って代わられる時代がくるのだろうか。いずれはそんな日が来るかもしれないが、もちろん明日急に世界が一変するというわけではない。

 Sakana AI自体もまだ限界があることを認めており、他にもさまざまな課題点が指摘されている。そのいくつかを整理しておこう。