ロシアにおける変化の起こり方

 カラムルザ氏は「権威主義体制ではいつもこのようなことが起こる。人々は体制が安定していて強固で安全だと信じている。しかしある日突然、崩壊する。20世紀初頭のロシア帝国も、20世紀末のソ連も文字通り3日で崩壊した。これがロシアにおける変化の起こり方だ」という。

「突然、思いがけない形で指を鳴らすように起こる。誰も変化を予期できず、備えていない。それが1990年代に大きな禍根を残した。ロシアや西側の誰もその変化に備えていなかった。そのためロシア、ウクライナ、欧州の人々は今もその影響に苦しんでいる」(カラムルザ氏)

 刑務所から出た後、カラムルザ氏の頭からずっと離れない考えがある。「ロシアで次の変化の機会が訪れた時、それを逃す権利は私たちにはない。重要なのは過去の失敗から学ぶことだ。誰も正確な時期や状況を知ることはできないが、近い将来、変化は必ず起こる」ということだ。

 旧ソ連時代の病巣はそのまま残り、犯罪に関与した人々が権力ある地位に就くことができた。腐敗の温床がプーチン支配を形作った。「私たちは国民による清算のプロセスを開始する必要がある。ウクライナにおける戦争犯罪、ロシア国民に対して犯した犯罪を裁く必要がある」(同)

「次の変化が起きた時、責任を負うべき人々は責任を問われなければならない。正義が実現され、説明責任が果たされなければならない。悪が二度と繰り返されないようにする必要がある。悪が公に反省されず、説明されず、非難されないのであれば、悪は再び戻ってくる」(同)

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。