自衛隊員と官庁キャリアの学歴比較に違和感

 自衛隊の高級幹部(将官など)の多くは防大卒が占め、上級幹部(佐官クラス)は一般大卒が多い。

 下級幹部(尉官クラス)の多くは曹(旧軍の下士官)から長年にわたり研鑽を重ねて幹部になった者、いわゆる叩き上げである。

『PRESIDENT』(2018年10月1日号)誌で部谷直亮(ひだになおあき、成蹊大卒、当時慶応義塾大SFC研究所上席研究員)氏は「自衛隊幹部が異様な低学歴集団である理由ーー中学校レベルの根性論とパワハラ」という論文を掲載していた。

 この論文の掲題からも分かるように、世間一般では自衛隊員を社会の劣等者や倫理観に欠けた集団のように見る風潮があるのではないだろうか。

 自衛隊幹部の学歴構成を分析して日本の官庁や米軍将校と比較し、高学歴化による日米共同訓練の円滑化に言及している点は、自衛隊の幹部養成に対する問題提起で有難い。

 ただ、自衛隊幹部と省庁の幹部を同じと考えていいのか、また米軍ばかりでなく英仏軍等との比較もしてほしかった。

 大卒や大学院(修士課程)卒を増やせば、他官庁や共同訓練を行う米軍にも引けを取らないようになるだろうとし、学歴付与のためにはオスプレイなどの装備数を減らせば簡単にできるではないかとも述べるが、自衛隊の実情を理解しない学歴偏重論のように思える。

 米軍ばかりでなく世界の軍隊は「国家の守り」として尊敬を受け、命を代償にしていることもあり、たとえ短命であっても残された家族などが困らないように処遇(すなわち厚遇)される。

 違憲の存在とさえ見る日本では冷遇があるのみだ。

 逆にそうした環境においても勤務している低学歴幹部たちは幹部になれた喜びと家族や周囲の信頼を得て、官庁のキャリアたちが持ち合わせない「愛国心」にあふれていることをご存知ないのだろうか。

 転勤や処遇に不満があれば辞める他国の将校たちと、そうした不満にも耐えて「日本のため」と頑張る低学歴幹部のどちらが素晴らしいと思われるのか。

 また、部谷氏は業務に直接関係ない教養書などを持っていると上司から睨まれる、パワーポイントで誤字脱字があれば人格否定される、将官を出迎えるために1佐(旧大佐)がワックス掛けしているなど、特異な例示で自衛隊の異常を抉り出そうとしている。

 しかし、長年勤務し、今もいろいろと情報を得ている筆者の肯定するところではなく、偏見に満ちており、安全保障専攻の博士とも思えない。

 部隊には漫画等もあふれているし、誤字の指摘は切磋琢磨であり、ワックス掛けは日本的共同精神の好例で根性論やパワハラとは異質だ。