外交・安保政策

 トランプは、当選したら、ウクライナでもガザでも、すぐに戦争を終わらせると豪語している。

 9月11日、共和党副大統領候補のJ.D.ヴァンスは、トランプが当選した場合には、ウクライナは中立化し、NATOには加盟させないという。そして、現在の前線を非武装地帯として、ロシアが二度とロシアの侵略を受けないように要塞化するという。ウクライナは、全領土の奪還を目指しており、このヴァンス案に反発している。

 この案は、ウクライナ支援を続け、NATOに加盟させるという従来のバイデン政権の立場と異なるし、ヨーロッパ諸国の立場とも違う。しかし、NATOの盟主はアメリカであり、これまでウクライナに最大の支援を行ってきているのもアメリカである。

 ハリスは、停戦は求めていくが、従来のバイデン政権の政策を踏襲する意向である。

 トランプが当選し、上記の公約を実行に移せば、大きな問題になる。アメリカ国民の関心は、ウクライナやガザよりも流入する不法移民の問題であり、トランプの政策を歓迎する可能性がある。停戦によって、財政支出を削減できる大きなメリットもある。

 しかし、ウクライナについては、国際法を蹂躙して他国を侵略したロシアの手法を認めることにもつながり、バルト三国をはじめ、ロシアに近接する諸国の反発は大きなものとなろう。

 さらには、アメリカ第一主義をとるトランプは、日本やヨーロッパに対して、追加の防衛負担を求めていく可能性がある。極論すれば、NATOがなくなってもよいというような考え方である。そうなれば、同盟国のウクライナ支援への熱意は冷めてしまう。それは、欧州での極右の台頭という今の傾向をますます助長することになる。

 日本に対しては、GDP比で防衛費を2%超よりもさらに上乗せさせたり、在日駐留米軍経費の日本側負担(思いやり予算)の増額を求めたりするであろう。

 以上検討してきたように、トランプが当選した場合のほうが、ハリス当選の場合よりも、予測不可能な要素が増え、リスクが高まると考えざるをえない。最近の世論調査ではハリスの支持率のほうが高いが、それは誤差の範囲内である。トランプ政権の誕生を想定して準備をしておいたほうがよい。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。