地元の新聞は羽生さんの思いをどこまで伝えられたか

 幕開けは、輪島市の「輪島・和太鼓 虎之介」の演奏に合わせた。能登高校からの中継では、書道部が圧巻の書道パフォーマンスを披露した。

 和太鼓奏者の男性は「能登で被災した僕らも命を懸けて一つの舞台を完成させましたが、スケーターの皆さんの力強く、美しい演技を見て、被災した人たちもすごく大きな力をもらうことができたと思います」と感謝の言葉を口にした。書道部員の高校生の声にも、羽生さんたちはじっくりと耳を傾け、何度も首を縦に振ってうなずく姿が印象的だった。

 1点だけ、残念なことがあった。地元の新聞メディアでの取り扱いだ。イベント翌日16日の朝刊紙面での演技会の扱いに関してである。

 先ほど紹介した記者が所属している新聞社、ほかにも熱心に質問をぶつけていた地元の記者の新聞が、どんな紙面を展開しているか。翌朝、JR金沢駅前のコンビニへ興味深く、楽しみに新聞を買いに行った。

 しかし、その扱いはあまりに小さいと言わざるを得なかった。

 年配の読者は今でも新聞を紙面で読む傾向が強いとされる。生配信を目にできなかった読者に紙面を通じて、羽生さんの思い、被災地へ足を運んだスケーターの思い、演技会に感化された地元の人たちの思いをどれだけ伝えようとしたのか。あれだけ熱心に質問をぶつけた記者の思いは、どこへ消えたのか。羽生さんが真摯に向き合って紡いだコメントが、紙面ではほとんどが省略されていた。
 
 全ての紙面に目を通したわけではないが、普段の在京メディアのスポーツ紙、一般紙の扱いとは差があった点が心残りだった。羽生さんの言葉を受け止めた地元の記者が、後日のコラムなどででも、被災者に思いをもう一歩踏み込んで届けてくれることを期待したい。

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田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。