(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
フィギュアスケート男子で五輪2連覇を果たしたプロスケーター、羽生結弦さんが15日、被災地への思いと祈りを込めて、石川・金沢市内で開催された「能登半島地震復興支援チャリティー演技会」に出演した。その模様をドコモの映像配信サービス「Lemino」が全国に独占生配信した。
反響はすさまじく、収益が被災地へ寄付される視聴チケット(税込み4500円)を13日時点で1万人以上(主催者発表)が購入。チャリティーTシャツも当初用意した4000枚が完売し、追加で1000枚を販売することになった。
配信イベントであるため滑り慣れた会場で実施する選択肢もあっただろう。にもかかわらず、羽生さんは被災した石川県を演技会場に選んだ。そこには、被災地に寄り添いたいという思いと、高い知名度を持つ自らが足を踏み入れることで復興途上の被災地にたくさんの人々の関心が薄れて欲しくないという切な願いが込められていた。
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五輪2連覇の知名度を生かし「ちょっとでも力になりたい」
プロスケーターとして活躍する無良崇人さん、鈴木明子さん、宮原知子さんとともに、1時間の演技会に被災地への思いを込めた。大トリで登場した羽生さんは「春よ、来い」を情感豊かに舞った。
4人によるフィナーレでは、被災地の人たちが希望を持って前へ進んでいくことを応援したいという思いを込めて、Mrs. GREEN APPLEの「ケセラセラ」を笑顔で全力で滑った。
演技会を終え、疲労困憊しているはずの羽生さんたちは会場で取材をしていた報道陣の囲み取材に応じた。その中には、在京メディアのフィギュアスケート担当だけではなく、地元で震災復興を取材する記者たちの姿があった。
ある男性記者は被災当時から現地で取材を続けていると話した上で、羽生さんにこんな趣旨の質問をした。
震災から半年以上が経過し、被災地以外の人たちの関心が薄まり、風化が進んでいる。そんな中で、羽生さんたちが滑った演技会に関する投稿が、X(旧ツイッター)のトレンドの1位になっていた。再び、たくさんの人の目が被災地に向けられた、と。
その記者は「羽生さんが滑ることに大きな意味があったと思います。改めてお気持ちを聞かせてください」と力を込めた。
東京から来た筆者たちにはわからない、地元で取材活動をしている記者たちの風化への懸念や苦悩と、そこに羽生さんが光を差し込めてくれたことへの希望の思いがあったに違いない。
羽生さんは、演技会前の6月に被災地の輪島市へ足を運んだ経験も踏まえて、その記者に視線を向けて言葉を紡いだ。
「僕たちは、『3・11』のこともそうですけれど、首都圏から離れていることで、なかなか報じられることがない中でも、復興が進みにくい場所、道路などの交通制限のようなことが普通の場所よりも大きいだろうと、大変なんだろうなということを、実際に足を運んだ時にも思いました」
「風化に対して、僕たちが何かをすることは難しいかもしれません。それでも、僕は震災の支援をしたいと思っています。そんな思いから、オリンピック2連覇の知名度を良い意味で使って、今回の配信のチケットを買ってくださった方々もそうですし、(義援金などの)お金も(世間からの)注目も、ちょっとでも、ちょっとでも力になれればいいなと思います」