2021年から打球速度が急上昇した理由

 ただ、大谷翔平にしても、最初から「スタットキャスト」のデータがすごかったわけではない。2018年にMLBに移籍して以降の「Exit Velocity」のMAXの推移をみていこう。本は本塁打数だ。

2018年 113.9MPH(183.3)44位/ 22本
2019年 115.1MPH(185.2)24位/ 18本
2020年 111.9MPH(180.1)63位/ 7本
2021年 119.0MPH(191.5)4位/ 46本
2022年 119.1MPH(191.7)3位/ 34本
2023年 118.6MPH(190.9)5位/ 44本
2024年 119.2MPH(191.8)3位/ 47本

 日本ハムから移籍した2018年の大谷の打球速度は44位。とはいってもこの年でも規定以上の打者は249人いるのだから44位でも大したものなのだが、この順位ではタイトルには手が届かない。

 2018年に1回目の右ひじ側副靱帯の再建手術を受けて2019年は打者に専念、さらに2020年は新型コロナ禍で60試合のショートシーズンとなり、「打者・大谷」に進化の跡は見えなかった。

 しかし2021年、大谷の打球速度はいきなり4位に浮上する。

 実は大谷は直前の2020年オフに、シアトル郊外にあるトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」に行き、投打のデータを分析し、アドバイスを受けていた。ドライブラインは、選手に無数のマーカーやセンサーを取り付けて打撃フォームや投球フォームをモーションキャプチャーして徹底的に分析、改善点を炙り出し、必要なトレーニングをアドバイスしてくれる施設である。

ドライブライン・ベースボールの打撃練習場。人の動きや姿勢を計測する「OptiTrack」や高速ビデオカメラ「edgertronic」などが設置され、動作解析ができる (写真:共同通信社)
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「ドライブライン」の打撃指導は非常にシンプルだ。「大事なのは打球速度」「そのためにパワーアップをする」「打球角度を上げる」。大谷は、まさに「フライボール革命」の核心をついた指導を受けて「進化」したのだ。

ドライブライン・ベースボールの打撃練習場では、打った瞬間に打球の速度や角度などが分かる=米シアトル(写真:共同通信社)
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 2021年、大谷は投手としても復帰し9勝を挙げる一方で、打者としてもリーグ2位の46本塁打を記録。二刀流の復活とともに、打者としてトップクラスに躍り出た。

 大谷は以後もオフになれば「ドライブライン」に通っているが、同時にMLBの主要投手の投球を高い精度で再現できる「トラジェクト・アーク」という機器を使い、各投手の投球の軌道やスピード感をシミュレートしているという。