リアルタイムで公開されるMLB選手の詳細データ

 MLBの野球のデータ化の進展の背景には、野球ゲームに親しむ野球ファンの存在があった。

 アメリカの「野球ゲーム」の歴史は古く、第二次大戦前にさかのぼる。その頃の野球ゲームは、実在の選手でチームを作って、サイコロなどで安打、本塁打などの結果を出すものだったが、1980年代に入るとゲームのプレイヤーがチームの「GM」の立場になって実在の選手を獲得して自分のチームを作り、ペナントレースを戦う「ファンタジーベースボール」が主流になった。

 このゲームでは、プレイヤーが作ったチームは、実際の選手のMLBでの成績によって得失点や勝敗が決まる。つまりファンタジーベースボールに参加したプレイヤーは、実際のMLBのペナントレースに一喜一憂することになるのだ。

 MLB公式サイトは、2006年、ファンタジーベースボールのファンに対して日々の試合をオンタイムで伝える「Gameday」というコーナーを開設。さらに投手のより詳細な情報を提供するために「PITCHf/x」という投手のスピードを計測するシステムを導入し、試合での投手の球速、回転数、変化などをオンラインで発信した。

 さらに2015年、投手のデータだけでなく、打者の打球についてのデータもオンタイムで伝えるために全30球団の本拠地球場に弾道計測器「トラックマン」を設置。「PITCHf/x」の進化形として「スタットキャスト」というデータ解析ツールを導入した。

「スタットキャスト」の導入によって、投手の球速、回転数、変化量、軌道、打者のスイングスピード、打球速度、打球角度などのデータが、試合の最中から膨大なデータとしてファンの手元に届くようになった。

 従来から、投球、打球に関するデータを計測する手段は存在した。しかしそれはあくまでブルペンやバッティングゲージに設置された機器によって計測される「練習時のデータ」だった。それが、トラッキングシステムである「トラックマン」を基幹とする「スタットキャスト」の導入によって「試合での投打のパフォーマンス」が、データ化され発信されるように進化したのだ。

 さらに「スタットキャスト」のトラッキングシステムは2020年「トラックマン」から「ホークアイ」に換装される。これによって投打だけでなく守備での選手のパフォーマンスもデータ化された。また投球、打撃の際のバイオメカニクス(生体力学)的なデータも得られるようになった。

トラックマン(左)とホークアイ(筆者撮影)
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