イデオロギー化するプレート説

「マントル対流の最上部に冷えて粘性の高くなった硬い層ができて、その層が沈み込み帯で地球深部に下降する」というのは、かなり特殊な現象です。

 プレートは金星や火星には存在せず、なぜか地球だけに存在することになっています。

「硬いけれど、沈み込み帯で曲げられるくらいには柔らかい」という性質を持つプレートがどうして地球だけに存在するのかも謎のままです。

 金星や火星は、地球と同じように「小惑星の衝突後に表層が冷やされた」という同じ経緯をたどってきたにもかかわらず、にです。

 金星や火星にはプレートが存在しませんが、地震が起こっていることがわかっています。

 これまで指摘した数々の難問を前に、最近、地震学者から開き直りとも受けとれる発言が出てきています。 「プレート説は理論かと言えば少し微妙で、証明するとかそういうものではなくて、こういう考え方に則ると、いろいろなことが説明できるのだ」と言い始めているのです。

「プレート説は提唱されてから50年以上が経っているが、地球表層の構造と現象を理解する上で非常に優れたパラダイムだから、プレートが動く原動力がわからなくてもいいのではないか」、こんな主張もあるぐらいです。

 原因と結果という因果関係を無視するようでは、近代科学とは言えません。科学的に実証されていない観念形態をイデオロギーと言いますが、今やプレート説も1つのイデオロギーに成り下がってしまったようです。

 イデオロギーの意義を否定するつもりはありません。しかし、人の生き死にに直結する地震予知が依拠する理論がイデオロギー化しているのは大問題と言わざるを得ません。

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藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。