ロシアの株式がインフレヘッジになっていない理由

 ロスネフチの株価は年明けより低迷しており、株式相場全体の重荷になっていた。そこにPIK社のような有力企業の株価の下振れが生じたことで、RTS指数は8月下旬に大きく下落したようだ。

 ロシアの経済運営は統制色を強めているとはいえ、両者の株価の動きはロシア経済の現状をそれなりに正しく映し出しているように見受けられる。

 そもそも論として、ロシアの株価の低迷は、ロシアではインフレヘッジの手段として株式が好まれていないという事実を浮き彫りにする。

 通常、高インフレが続く国では、国民が株式を購入し、資産防衛を図ることが一般的である。例えば、高インフレが続くトルコの場合、2022年から24年前半にかけて、主要株価指数が5倍近く上昇している。

 ロシアでもこの間、インフレが進んでおり、名目GDPが急激に膨らんでいる。

 株価はあくまで名目の指標であるから、名目GDPが増えれば上昇するはずだが、ロシアの場合はそうなっていない。それだけロシアの株式は、国民にインフレヘッジの手段として認識されていないということだ。国民は政府のみならず、企業も信用していない。

 ロシアが本格的な市場経済体制に移行したのは、わずか30年前のことである。うち20年を率いてきたのが今日の指導者であるウラジーミル・プーチン大統領だった。その下で、ロシアの株式市場は健全な発展を阻まれてきたということなのだろう。ロシアの株価低迷は、ロシア経済の不振を端的に物語る「写し鏡」である。