主食向けをあきらめる米農家

<価格高騰の背景は?>
 1994年の「平成の米騒動」、そして2004年の価格高騰は、いずれも前年産が冷夏で凶作となった影響が大きい。すなわち、一時的な天候要因による供給減少が背景であった。作柄が豊作または平年並みに戻ったことで、価格高騰は短期間で収まった。

 だが、足元の「令和の米騒動」は、需要面と供給面の双方の変動によりもたらされている。

 コロナ禍直後、外食需要の縮小により、総需要が減少し、供給超過につながった。米価格は2020年秋頃から約2年間下落が続いた。だがその後は、飼料用を中心に需要が回復する一方、作付面積の縮小により供給が縮小し、需給逼迫につながっている。

 作付面積は、2018年に減反政策が終了して以降、一旦下げ止まったが、2021年以降に再び縮小している。コロナ禍で外食向け需要が縮小、その後の需要の戻りが弱く、主食向けの米作りを諦める動きが生じた可能性がある。需要動向や作付面積動向をみる限りでは、主食向けから飼料向けや他の作物に作付けを転換する動きが生じたとみられる。

 先行きの米価格は予想が難しい。短期的には、2024年産の新米供給により、価格高騰は一服する可能性があるが、8月末から9月初にかけて日本列島を直撃した台風10号の被害の影響が懸念材料だ。中長期的には、人口減等を背景に主食用の需要縮小が続き、同時に高齢化などにより労働供給も縮小が続く見込みだ。

 過去のような一時的な天候要因による価格高騰ではなく、需給双方に一時的な要因と構造的な要因が絡むため、判断が難しい。

【宮前 耕也(みやまえ こうや)】
SMBC日興証券㈱日本担当シニアエコノミスト
1979年生まれ、大阪府出身。1997年に私立清風南海高等学校を卒業。2002年に東京大学経済学部を卒業後、大阪ガス㈱入社。2006年に財務省へ出向、大臣官房総合政策課調査員として日本経済、財政、エネルギー市場の分析に従事。2008年に野村證券㈱入社、債券アナリスト兼エコノミストとして日本経済、金融政策の分析に従事。2011年にSMBC日興証券㈱入社。エコノミスト、シニア財政アナリスト等を経て現職。
著書に、『アベノミクス2020-人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム社、単著)、『図説 日本の財政(平成18年度版)』および『図説 日本の財政(平成19年度版)』(東洋経済新報社、分担執筆)がある。